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ぶどう畑のぶどう作り
ぶどうばたけのぶどうづくり |
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作品ID | 50723 |
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原題 | LE VIGNERON DANS SA VIGNE |
著者 | ルナール ジュール Ⓦ |
翻訳者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「ぶどう畑のぶどう作り」 岩波文庫、岩波書店 1938(昭和13)年4月15日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 岡村和彦 |
公開 / 更新 | 2019-02-22 / 2019-01-29 |
長さの目安 | 約 175 ページ(500字/頁で計算) |
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土地の便り
フィリップ一家の家風
一
フィリップ一家の住居は、おそらく、村じゅうでいちばん古い住居である。藁ぶきの屋根は、苔が生えて、処まんだらに修繕をしたあとが見え、庇が地べたの上に垂れ、入口は頭がつかえるほどで、小さな十字窓は、てんから開かないようにできている。これで見ると、どうしても、二百年ぐらい経った代物としか思えない。フィリップのお神さんは、その点、気がひけるらしい。
「貧乏も、よっぽど貧乏じゃなくっちゃね、これをこのまんまうっちゃらかしとくなんて……」
「どうして? 僕は、とてもいいと思うね、この家」
すると、彼女は、
「壁にさわると壁土が指にくっついて来るんですからね」
フィリップが言うには、
「だから、小巴里新報の古いので、穴をふさげばいいじゃないか。誰も、それをするなとは言やしない」
「お金持の住むような家が欲しいわけじゃないのさ。さっぱりしてさえすりゃいいんだから。これで、いくらか溜めてでもありゃ、こんなぼろ家でもすぐに手入れぐらいはするんだけれど」
「それは、よしたほうがいい、おばさん。まったくすてきだもの、この家は」
「いつぺしゃんこになるかわからないね」
「心配せんでいい。お前が葬られるまでは大丈夫」
「これが頭の上へ落ちて来てかい」
こう返事をしたが、誰も笑わないので、自分ひとりで笑う。
「何も心配することはないさ」と、わたしは言う――「自分の家を軽蔑しちゃいけない。それこそとんだ間違いだ。この家は、たいした値打ちがあるんだからね。御先祖から伝わった家じゃないか。あんたは、亡くなった人を粗末にはしないだろう。だから、亡くなった人から伝わったものは、大事に取っとくといい。あんたの家は、古い時代の思い出なんだ。神聖な形見なんだ」
「そりゃまあそうですね」――フィリップのお神さんは、もう、うれしそうに、こう言うのである。
「僕がもしあんただったら、石ひとつ取替えたくないね。新しい家なんかより、僕はこのほうが好きだ。そりゃ、どんなにいいか――見て面白いと言う点から言っても、いろんなことを教えられると言う点から言っても、あの当世ふうのお邸なんかよりは、ずっとこのほうが好きだよ。そうだろう、第一、この古い懐しい家は、過ぎ去った事を思い出させる。それから、こういう家がなければ、われわれは、自分たちの先祖がどんなふうにして住居をこしらえたかということがわからなくなるからね」
「な、どうだ」――ほとんど常にお神さんに反対して、わたしの意見に同意するフィリップは、この時も、こう言うのである。
「ほんと。こういうような家は、よっぽど遠くへでも行かなけりゃ見当たりませんね。まあこの辺でも、類がないんだから」――彼女は思い出したように――「おはいりなさい、どうぞ」と言った。
まず閾をまたいで驚くのは、脚に車の付いてない、幅も広いが、長さも…