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イエスキリストの友誼
イエスキリストのゆうぎ
作品ID50746
著者新渡戸 稲造
文字遣い新字新仮名
底本 「新渡戸稲造論集」 岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年5月16日
初出「明治の女子 五巻七号」日本基督教女子青年会、1908(明治41)年8月15日
入力者田中哲郎
校正者ゆうき
公開 / 更新2010-10-16 / 2014-09-21
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私はちと所要あって田舎の方へ参っていたが今日この席に立て標題のようなお話しをするようにとのこと、この日に限って御無沙汰するのも何だか気持がわるいし、またこの日を撰で友を避けるというのも四十八ヶ年以来の習慣方度に背く。これゃ一つ参らねばなるまいといよいよ決心の臍を固めて今朝田舎を後に都上りを致したようなわけである。こう申すと何だか皆様に恩を着せるようだがあまり有難いなどと思われては困る。なあに参りは参っても肝心のお話は極々つまらない面白くないものだからただ此処までやってきた私の厚意だけを汲みとってもらえばそれでもう沢山である。(笑声起る)
 さてただ今お話しようというのは「エスキリストの友誼」ということであるが、これは何も私が勝手に撰だわけのものではなく役員の方で撰出せられたものである。が多少これに就て感ぜないというわけでもない。一体宗教家などいうものは専門的のものでも何でもないのだから宗教家には常識が欠けていてはならぬ。元来宗教その物がコムモンセンスのもので決してセンモンセンスのものでないのだ(大笑声起る)。常識で普通一般の人が知悉していることが宗教で決して格段に目新らしいものではない、非常に珍らしい珍奇なことをいう宗教家こそかえって非常に怪しい怪物なんだ。
 一体偉い人とは如何者だろう。偉いというのは何も破天荒なことをのみいう人ではない。万人の言わんとし語らんとして未だ語り得ない事実を言てくれる。これが偉いのだ。衆人に秀れた人なのだ。もしも珍奇な破天荒な事実を明かす人のみが偉いと思ったら先ずさしあたり巣鴨近傍に行ってみるがいい。葦原将軍だとか天下の予言者だとかいう偉い連中はいくらもころがっている(笑声起る)。私は論語を読でいつも非常に感服するが論語の第一頁には何と書いてある。「有レ朋自二遠方一来亦不レ楽乎」別に目新しいことでも何でもない。酒屋の小僧でもいってることなんだ。けれどもこの一句が誰でもいってることで万人共通の感想だけになお以て嬉しい。衆人の言いたいことを僅々十個の文字の中に含蓄せしむる。これが偉い所だ。凡人の及ばない力量である。で私もキリストの友誼より豪いことは言わぬつもり、否皆さんがとうに知ってることをいってみたいと思う。
 新聞や雑誌などで盛に書いてるからとうに御存知だろうが昔アリストートルはゾーポリチコン Zo, Politikon といった。こんなことをいうと希臘語なども私は知ってるようだが実はこれだけしけゃ知らない。でこのゾーポリチコンという希語を訳してみると「人は社会的動物なり」ということになるそうだ。人間はどうもそうらしい。相手を求めて交りをする。畜生でもそうだ。犬ころが、何か鳴いては求めている。じゃれ廻っては切りに喜でいる。してみると犬も慥かに社会的に出来てる。のみならず、犬は人と交って最も長いものだ。これは非常に面白い興味ある…

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