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蝦夷とコロボツクルとの異同を論ず
えみしとコロボックルとのいどうをろんず
作品ID50754
著者喜田 貞吉
文字遣い旧字旧仮名
底本 「歴史地理 第九巻第三号」 日本歴史地理学会
1907(明治40)3月1日
初出「歴史地理 第九卷第三號」日本歴史地理學會、1907(明治40)年3月1日
入力者しだひろし
校正者フクポー
公開 / 更新2018-07-03 / 2018-06-27
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

我が群島國の先住種族中、石器を使用して、其遺蹟を後世に遺せるものは何なりやとの疑問に對して解决を與ふる諸説の中、最も多數なるは、之を蝦夷なりとするものと、之を蝦夷とは別種なるコロボツクルなりとするものとの兩説なり。其他肅愼人説、土蜘蛛説などあれども、比較的、賛成者少し。而して蝦夷説を唱ふる學者中最も有力なるは、言ふ迄もなく小金井博士にして、コロボツクル説を採らるゝ最有力者は、言ふまでもなく坪井博士なり。兩博士の研究は頗る精緻の域に達す。余輩は、今こゝに蝦夷とコロボツクルの異同を論じて、敢て兩博士の學説に容啄し、之が批判を試みんとするものにあらず。余輩はもと、考古學上の知識に乏しく、更に解剖學上の知識に就きては殆ど絶無なり。故に、此等の點に關しては、諸先輩の學説を敬重して、之を信ずるの外なし。然れども、余輩は、また、別に記録上聊信ずる所あり。即ち此見地より立論して、諸先輩の已に研究せられたる諸説に對照し、以て、兩者の異同に關する管見を開陳せんとす。
管見を述ぶるに先つて、余輩は、先づ、二者の異同に關して已に發表せられたる諸説を觀察するの要あるを認む。
小金井博士曰く、
アイノの開化の度合を考へて見ると、コロボツクル又はトンチなるものは、即ちアイノ自身であると思はれる。即ちアイノは獸獵魚漁を以て業として居る所の人民でありまして、金屬を鍜へる事の技術は、總ての點から考へて見て、曾て知つて居つた事がないと思ふ。即ちアイノが石の鏃を付けた矢を持つて獸を射たり或は石の鋒の銛を持つて魚を捕つたりした時代からして遠くは進歩して居らない。唯僅に他の人種から金屬の器物を得たと云ふさういふ低い程度に居る人民であるといふ事を考へて見ると、コロボツクル又はトンチと云ふものはアイノ自身であると思はれる。(東洋學藝雜誌二六〇號)
此説は、蝦夷即石器時代人民といふ立塲より立てられたる説にして、蝦夷以外にコロボツクルなる種族なしとの義なり。坪井博士は、コロボツクル非アイヌ説を持せらるゝものにして、其説は數多の論文として現はれ、讀者の齊しく知悉せらゝ所と[#「知悉せらゝ所と」はママ]信ずるが故に、こゝに之を引用するを略す。但東洋學藝雜誌二五九號所載の、小金井博士の石器時代の住民論の前半は坪井博士の説を數多の斷片より綜合せられたるものにして、之に對して、坪井博士は「第二五九號一五一から一六三までは、主として私の説の摘要で、彼方此方書き散らしたものを、好くも探り求めて順序を立てゝ下さつたと、深く感謝致します」と言はれたるを見れば、よく、博士の説の要をつくされたるものなるべく、余輩は、之を以て、博士の所説を代表せるものと信ぜんとす。中田法學士は亦、最近に、その「我太古史に見えたるアイヌ語の神名」(史學雜誌十七の九)に於て、アイヌ説コロボツクル説を共に極端に走れる誤謬なりとし、別に、コロボツクルはアイ…

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