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赤い船
あかいふね
作品ID50975
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-02 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 露子は、貧しい家に生まれました。村の小学校へ上がったとき、オルガンの音を聞いて、世の中には、こんないい音のするものがあるかと驚きました。それ以前には、こんないい音を聞いたことがなかったのです。
 露子は、生まれつき音楽が好きとみえまして、先生が鳴らしなさるオルガンの音を聞きますと、身がふるいたつように思いました。そして、こんないい音のする器械は、だれが発明して、どこの国から、はじめてきたのだろうかと考えました。
 ある日、露子は、先生に向かって、オルガンはどこの国からきたのでしょうか、と問いました。すると先生は、そのはじめは、外国からきたのだといわれました。外国というと、どこでしょうかと考えながら聞きますと、あの広い広い太平洋の波を越えて、そのあちらにある国からきたのだと先生はいわれました。
 そのとき、露子は、いうにいわれぬ懐かしい、遠い感じがしまして、このいい音のするオルガンは船に乗ってきたのかと思いました。それからというもの、なんとなく、オルガンの音を聞きますと、広い、広い海のかなたの外国を考えたのであります。
 なんでも、いろいろと先生に聞いてみると、その国は、もっとも開けて、このほかにもいい音のする楽器がたくさんあって、その国にはまた、よくその楽器を鳴らす、美しい人がいるということである。で、露子は、そんな国へいってみたいものだ。どんなに開けている美しい国であろうか。どんなに美しい人のいるところであろうか。そしてその国にいくと、いたるところでいい音楽が聞かれるのだと思いました。それで露子は大きくなったら、できるものなら、外国へいって音楽を習ってきたいと思いました。露子の家は貧しかったものですから、いろいろ子細あって、露子が十一のとき、村を出て、東京のある家へまいることになりました。



 その家はりっぱな家で、オルガンのほかにピアノや蓄音機などがありました。露子は、なにを見ても、まだ名まえすら知らない珍しいものばかりでありました。そしてそのピアノの音を聞いたり、蓄音機に入っている西洋の歌の節など聞きましたとき、これらのものも海を越えて、遠い遠いあちらの国からきたのだろうかと考えたのであります。昔、村の小学校時代にオルガンを見て、懐かしく思ったように、やはり懐かしい、遠い、感じがしたのであります。
 その家には、ちょうど露子の姉さんに当たるくらいのお方がありまして、よく露子をあわれみ、かわいがられましたから、露子は真の姉さんとも思って、つねにお姉さま、お姉さまといって懐きました。
 よく露子は、お姉さまにつれられて、銀座の街を歩きました。そして、そのとき、美しい店の前に立って、ガラス張りの中に幾つも並んでいるオルガンや、ピアノや、マンドリンなどを見ましたとき、
「お姉さま、この楽器は、みんな外国からきましたのですか。」
と問いました。お姉…

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