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つばめと乞食の子
つばめとこじきのこ
作品ID50978
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-05 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある村へ、一人の乞食の子が入ってきた。十二、三で顔はまっ黒く、目の大きな子だ。そのうえいじ悪で、人に向かって、けっして、ものをくれいといったことがない。毎日毎日外を歩いていて、ほかの子供がなにか食べていると、すぐさまそれを奪い取って食べてしまう。また銭を持っていると、すぐさまその銭を奪い取って、自分でなにか買って食べてしまう。だから村じゅうでは、その乞食の子をにくまないものがない。けれど、しかるとかえって復讐をするので、だれも恐れていた。乞食の子は、夜になっても泊めてくれるものがない。いつも木の根や、家の軒でねたり、林の中でねたりしていた。朝早く起きると、子供が遊んでいるのを探して歩いた。
 ある日じいさんが、途中で財布を取り出して金を計算しているのを見た。乞食の子は、さっそくそばへきて、地面に落ちている小石を拾って、
「おじいさん、銀貨が一つ落ちていた。」といって、手をさしだすと、じいさんはあわてて、金を取り返そうとした。乞食の子は手をひっこめた。するとじいさんは、ほんとうにこの子が銀貨を拾ったと思いこんで、
「この悪い小僧め、早く返さんか。」と怒って後を追い駆けた。乞食の子は、おもしろがって逃げた。じいさんは追い駆けているうち石につまずいて、みんな地面に財布の金をまいてしまった。このとき子供は駆けてきて、落ちた金を拾って逃げた。後でじいさんは、うまくだまされたのを後悔した。
 あるとき、金持ちの子供が、うまいお菓子を食べていた。乞食の子は、ぶらぶらやってきた。さっそく子供は、うまいお菓子をふところにかくしてしまった。乞食の子は、自分のからだに止まっていたはえを捕らえた。そしてなにげないふうで、その子供の後ろにまわって、えりもとへはえを落として、
「あっ、危ない、はちが入った! はちが入った!」と叫んだ。
 その子供は驚いて、さっそく帯を解いて着物を脱ぎ捨てると、
「僕が、はちを殺してやる。」といって、うまいお菓子の袋を取りあげて逃げていった。子供は泣いて家へ帰った。
 村の人々はみんな、この乞食の子をにくんだ。どうかして追いはらう工夫はないかと相談した。
 一人がいうのに、ひどいめに合わせたらどこかへいくだろうといった。すると、あるものは反対して、
「もしひどいめに合わせて、この村に火でもつけられるとたいへんだ。」といった。
 一人がいうのに、金をやって、もうこの村にくるなといったら、もうこないかもしれんといった。すると一人が反対して、
「また金がなくなりゃ、入ってくるから、だめだ。」といった。
 すると、一人がいうのに、どこかへ連れていって、おいてくるのがいちばんいいといった。
 そこで、村の中で口の上手な人を選んで、乞食の子を誘い出した。乞食の子は村の人々の相談を知っていたから、どれ、村の人々を困らしてやろうと考えた。そこへ男がやってきた。
「おい…

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