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海へ
うみへ
作品ID50980
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「日本少年」1918(大正7)年7月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-05 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この村でのわんぱく者といえば、だれ知らぬものがなかったほど、龍雄はわんぱく者でした。親のいうこともきかなければ、また他人のいうこともききませんでした。
 よく友だちを泣かしました。すると泣かされた子供の親は、
「またあの龍雄めにいじめられてきたか。」
といって、なかには怒って親がわざわざ龍雄の家へ告げにやってくるものもありました。こんなわけで龍雄の両親は、わが子にほとほと困ったのであります。学校にいる中は、成績はいいほうでありましたけれど、やはり友だちをいじめたり、先生のいうことをきかなかったりして先生を困らしました。しかし小学校を卒業すると、家がどちらかといえば貧しかったので、それ以上学校へやることができなかったのであります。龍雄は、毎日棒を持って村の中をぶらぶら歩いていました。
 彼は乱暴なかわりに、またあるときは、優しく、涙もろかったのであります。だから、この性質をよく知っている年をとった人々には、またかわいがる人もあったのであります。
 親は、もう十四になったのだから、いつまでもこうしておくわけにはゆかぬと考えていました。ちょうどそのやさきへ、あるしんせつな老人がありまして、そのおじいさんはふだん龍雄をかわいがっていましたが、
「私の知った町の糸屋で、小僧が欲しいということだから、龍雄をやったらどうだ、先方はみなしんせつな人たちばかりだ。なんなら私から頼んであげよう。」
と、おじいさんはいいました。これを聞いた龍雄の親たちはたいそう喜びました。そして、さっそく龍雄をその家へやることに決めました。
 いよいよ家から出て、他人の中に入るのだと思うと、いくらわんぱく者でもかわいそうになって、もう二、三日しか家にいないというので、両親はいろいろごちそうをして龍雄に食べさせたりしました。ある日のこと、龍雄は母親とおじいさんの二人に連れられて、町へいってしまいました。
 龍雄が村にいなくなったときくと、日ごろ彼からいじめられていた子供らは、みな喜び安心しました。もうこわいものがないと思ったからです。
 彼の母親や、また父親は、
「いまごろはどうしているだろう。」
と、龍雄のことを思い暮らしました。すると、いってから二、三日たったある日の晩方、突然、戸口に龍雄の姿が現れたから、両親はびっくりして、そのそばに駆けよりました。
「どうして帰ってきたか?」
と、母親は問いました。
 母親は、なにか我が子が悪いことでもして出されてきたのではないかと思ったので、こういう間も胸がとどろきました。
「黙って帰ってきた。糸屋なんかいやだ。もうどうしてもゆかない。」
と、龍雄はいってききませんでした。
「そんなことをいうもんでない。しんぼうしなくては人間になれない。謝って帰らなければならない。」
と、父親も、母親もいいましたけれども、どうしても龍雄はいうことをききませんでした。

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