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つばめの話
つばめのはなし
作品ID50988
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-08 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 夏の初めになると、南の方の国から、つばめが北の方の国に飛んできました。そして、電線や、屋根の上や、高いところに止まって、なきました。広い野原の中を汽車がゆくときに、つばめは、電線の上に止まって、じっとながめていたこともあります。また、青い海辺に連なる電線に止まって、海の方を見ていたこともあります。けれど、また町の人家の店頭に巣を造って日が暮れるころになると、みんな家の中の天井の巣の中に入って休みます。そして、夜が明けると外に出て、空や往来の上をひらひらと飛びまわってないているのでありました。
 太郎は、ほかの家には、つばめが巣を造って毎日、店頭から出たり入ったりするのを見て、なぜ自分の家にも巣を造らないのかと思いました。そして、このことをお母さんに話しますと、
「つばめが、巣の造れるように、場所を造ってやらなければなりません。」
と、お母さんはいわれました。
「どうか、つばめが巣の造られるように場所を造えてください。」
といって、太郎はお母さんに頼みました。
 太郎のお母さんは、このことを太郎のお父さんに話しました。お父さんは、店頭の梁へ箱のように板をつけました。こうしておけば、どこかいい場所がないかと探しているつばめが見つけて、きっとここに巣を造るにちがいないからであります。
 太郎は、早くつばめがここにくるようにと待っていました。すると、ある日のこと、つばめが入ってきてこの場所に止まりました。そのつぎには、二羽でここにやってきました。そして、そこに止まって頭をかしげてなにやら考えているようなようすでありましたが、その日から毎日、二羽のつばめは、どこからか、土や、髪の毛や、わらくずなどをくわえて運んできて、せっせと巣を造りはじめました。そして、やがて完全に巣を造ってしまいますと、雌鳥は巣について卵を産みました。夏の半ばころには、もはやつばめの子供がなくようになりました。太郎はかわいくてたまりませんでした。そのうちに秋がきて、秋も半ばを過ぎますと、つばめはどこにか、みんな飛んでいってしまいました。



 その明くる年も、またつぎの明くる年も、つばめは夏の初めになると、飛んできました。そして、長い月日をそこに送りました。やがて秋がきてしだいに寒くなる時分になると、どこへか飛んでゆきました。
 太郎が、小学校の四年生になった年の夏の初めでありました。どこの家にもつばめが帰ってきました。どうしたことか独り太郎の家にはつばめがきませんでした。太郎はどうしたのだろうと、毎日、つばめの帰ってくるのを待っていました。
「きっと、そのうちに帰ってくるのでしょう。」
と、お母さんがいわれたけれど、なかなか帰ってきそうなようすがありませんでした。太郎は、心配でならなかったのです。帰る路を忘れてしまったのではないか、それとも変わったことでもあったのではないかと思い煩っ…

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