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めくら星
めくらぼし
作品ID50995
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「おとぎの世界」1919(大正8)年6月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-11 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは、ずっと、いまから遠い昔のことであります。
 あるところに目のよく見えない娘がありました。お母さんは、娘が、まだ小さいときに、娘をのこして、病気のため死んでしまいました。その後にきましたお母さんは、この娘を、ほんとうの自分の産んだ子供のようにかわいがらずに、なにかにつけて娘につらくあたりました。
 娘は、目こそあまりよく見えませんでしたけれど、まことにりこうな女の子でありました。そして、後にきたお母さんに産まれた、弟の三郎の守りをしたり、自分のできるかぎりの世話をしたのであります。
 こんなに、弟をかわいがりましたのにかかわらず、お母さんは、やはり娘を目の敵にしました。お母さんは、じつにものの道理のわからない人でありましたけれど、弟の三郎はこの姉を慕い、そのいうことをよくきく、いい子でありました。
 三郎は、一羽のかわいらしい小鳥を飼っていました。その小鳥は、羽の色が美しいばかりでなく、いい声を出して、朝から晩までかごの中でさえずりうたいましたから、三郎はこの小鳥を愛したことは一通りでありませんでした。また三郎のいちばん大事にしていたのは、この小鳥であったことはいうまでもありませんでした。
 いじの悪い母親は、娘に向かって、
「おまえは、毎日鳥に餌と水をやりなさい。そして、もし鳥をにがすようなことがあったなら、そのときはたいへんだ。そうすれば、もう、おまえはこの家から出ていくのだ。けっして、家に置きはしないから。」といいました。
 おとなしい、目のよく見えない娘は、どんなに、この母親のいいつけを当惑したでありましょう。
 小鳥は、そんなこととは知らず、朝からかごの中でとまり木にとまって、ないたり、さえずったりしていました。そして、細いかごの目から、遠い空などをながめていますうちに、小鳥はどうかして、広い世へ出て、自由に、あの青々とした空を飛んでみたいものだと思ったのであります。
 小鳥は、自分の友だちらが、木の枝や、かなたの空でないているのを聞きますと、その気ままな生活がうらやまれたのでありました。自分もどうかして、このかごの中から逃げて出て、せめて一目なりとも、世の中のさまざまな景色を見たいものだと思いました。
 こう小鳥が外にあこがれていますうちに、ある日のこと、目のよく見えない娘は、餌猪口をかごの中に倒して、それを直そうと気をもんでいました。小鳥は、娘の手とかごの入り口のところにすきまのあるのを発見しましたので、すばやく身をすぼめて、ついとそこから、外に逃げ出してしまいました。
 小鳥は、まず屋根の上に止まりました。そして、これからどっちへ向かって逃げていったらいいかと、しばし思案にふけったのです。そのとき、家の内では、なんだか大騒ぎをするようなようすでありましたから、まごまごしていて捕らえられてはつまらないと思いましたので、一声高くないて、遠…

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