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おじいさんの家
おじいさんのいえ
作品ID50996
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「おとぎの世界」1919(大正8)年4月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者雪森
公開 / 更新2013-05-25 / 2014-09-16
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 学校から帰ると正雄は、ボンと楽しく遊びました。ボンはりこうな犬で、なんでも正雄のいうことはよく聞き分けました。ただものがいえないばかりでありましたから、正雄の姉さんも、お母さんも、みんながボンをかわいがりました。
 ただ一つ困ることは、日が暮れてから、ボンがほえることであります。しかしこれは犬の役目で、夜中になにか足音がすればほえるのに不思議なことはありませんけれど、あまりよくほえますので近所で迷惑することであります。
「ボン、なぜそんなにおまえはほえるのだ。もう今夜からほえてはならんよ、ご近所で眠れないとおっしゃるじゃないか。」と、正雄のお母さんがおしかりになると、ボンは尾を振って、じっとりこうそうな目つきをして顔を見上げていましたが、やはり、夜になると、家の前を通る人の足音や、遠くの物音などを聞きつけて、あいかわらずほえたのであります。
 正雄は、床の中で目をさまして、またボンがほえているが、近所で迷惑しているだろう。どうしたらいいかと心配しました。正雄は起きて戸口に出てボンを呼びました。するとボンは喜んですぐに走ってきました。思いがけなく夜中の寂しいときに呼ばれたので、ボンはうれしさのあまり、正雄に飛びついて、ほおをなめたり、手をなめたりして喜んだのであります。
「ボンや、あんまりほえると、また、いつかのようにひどいめにあわされるから、黙っているんだぞ。夜が明けたらいっしょに散歩にゆくから、おとなしくしておれ。」と、正雄はボンの頭をなでながらよくいいきかせました。そうしてまた、正雄は床の中に入って眠りました。
 その後でも、おそらくボンはほえたかしれません。けれど正雄はよく眠ってしまいましたから、なにごとも知らなかったのであります。
 朝起きると正雄は、戸口に出てボンを呼びました。ボンは、さっそくそばにやってきましたけれど、どうしたことかいつものように元気がなかったのでありました。
 ボンは病気にかかっているように見えました。正雄を見ますと、いつものように尾を振りましたけれど、すぐにぐたりとなって地面に腹ばいになってしまいました。そうして、苦しそうな息づかいをしていました。口笛を吹きましても、ついてくる気力がもうボンにはなかったのであります。
 正雄は驚いて、家の中へ入って、
「ボンが病気ですよ。」と、お母さんや、姉さんに告げました。
 そこで、みんなが外に出てみますと、ボンは脇腹のあたりをせわしそうに波立て、苦しい息をしていました。そうして、もう呼んでも、起き上がって尾を振ることもできなかったのであります。
「あんまり、おまえがほえるものだから、だれかに悪いものを食べさせられたのだよ。」と、お母さんは、ボンの頭をなでて、いたわりながらいわれました。
 姉さんは、ボンの苦しむのを見てかわいそうに思って、さっそく獣医のもとへボンを車に乗せて連れて…

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