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子供の時分の話
こどものじぶんのはなし
作品ID50998
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「おとぎの世界」1919(大正8)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-10-27 / 2014-09-16
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あめ売りの吹く、チャルメラの声を聞くと、子供の時分のことを思い、按摩の笛の音を聞くと、その人は涙ぐみました。その話を聞かせた人は旅の人です。そして、その不思議な話というのはつぎのような物語です。
       *   *   *   *   *
 町からすこしばかり離れた、小さなさびしい村でありました。村には昔の城跡がありました。ちょうど私と同じい七つ、八つばかりの子供が、毎日五、六人も寄り集まって鬼事をしたり、こまをまわしたりして遊んでいました。
 ずっと以前から、この村に一人のあめ売りじいさんが入ってきました。チャルメラを吹いて、小さな屋台をかついで町の方からやってきました。子供らはみんな、このおじいさんの顔をよく知っていました。
 私は、昼寝をしている時分に、夢の中でこのチャルメラの声を聞いたこともあります。また外に遊んでいる時分に、かなたの往来にあたって聞いたこともあります。
 木の葉が風に光っていたり、とんぼが飛んでいるのを見るよりほかに、変化のない景色は物憂く、単調でありましたから、たまたまあめ売りの笛の音を聞くと、楽しいものでも見つかったように、その方へ駆けていったものです。
 このあめ売りじいさんは、城跡の入り口のところに、いつも屋台を下ろしました。そして、村じゅうの子供を呼び寄せるように、遠方を望んで、チャルメラを吹き鳴らしました。じいさんは、もういい年であったとみえて、目のしょぼしょぼとした小じわのたくさんな顔が日に焼けて、黒い色をしていました。
 けれど、私は、またこんな無愛想なじいさんを見たことがありません。多くの子供が、こうしてなつかしそうに、慕わしそうにそのそばへ寄ってきましても、つい一度として笑った顔も見せなければ、戯談をいって喜ばせてくれたこともなかったのです。
 こうして、そこに二、三十分も屋台を下ろして休んでいますが、もうあめを買ってくれる子供がいよいよないとわかると、じいさんは黙って屋台をかついで、お城の中を通って、かなたの村の方へといってしまいます。私は、いつもさびしそうにして、おじいさんの消えてゆく姿を見送りました。
 昔からある、城の門の四角な大きい礎石は、日の光を浴びて白く乾いていました。草は土手の上にしげっていました。そして、小鳥は四辺の木々のこずえに止まってないていました。北の方から、悲しい風が吹いてきて、ほおをなでたのであります。
「さあ、家の方へ帰ろうよ。」と、友だちの一人がいいますと、
「ああ、帰ろう。」と、みんながいって、家のある方へと帰っていきました。
「君、河へ泳ぎにいこうか。」と、中の一人がいいますと、
「ああ、泳ぎにいこう。」と、あるものは同意しましたけれども、また、あるものは、
「僕、河へいくとお母さんにしかられるから、いやだ。」と、ゆくのを拒んだものもあります。
「弱虫だなあ、じゃ、僕ら…

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