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太陽とかわず
たいようとかわず
作品ID51016
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-10-06 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 池の中に水草がありましたが、長い冬の間水が凍っていましたために、草はほとんど枯れてしまいそうに弱っていました。それは、この草にとって、どんなに長い間でありましたでしょう。
 そのうちに、やっと春がきまして、氷が解けはじめました。池の水は日に増しぬるんできて、日の光がその面を照らすようになりましたので、水草は、なつかしい太陽をはじめて仰ぐことができました。
 太陽が、にこやかに笑って小さな水草をじっとながめましたときに、草はうれしさに、心はもういっぱいで、目に涙ぐんで太陽に訴えました。
「お日さま、もうわたしは、まったく死にそうでございました。もしも、あなたがもっと長い間わたしをこんなに暖かに照らしてくださらなかったなら、わたしは、ほんとうに凍えて死んでしまったでしょう。どうか、もうわたしを見捨てないでくださいまし。わたしの小さな紫色の花が咲きますまでは、どうぞ毎日のようにお恵み深い光で照らしてくださいまし。わたしは、いまからその場になって、また毎日雨の降るのが気遣わしゅうございます。どういうものかわたしは、この池の中に棲んでいるかわずと気質が合わないので、つねに苦しめられますけれども、なんといっても、かわずのほうがわたしより強うございます。それに、かわずは雨が好きで、雨の降るようにいつも訴えますので、わたしたちは短い命を雨のために悩まされるのでございます。どうぞ、お日さま、わたしたちをお恵みください。」と、水草はいいました。
 太陽は笑って、水草の訴えを聞いていましたが、「わかった、わかった。」と、その頭を振ってみせました。
 ある日、かわずは池の面に浮かんで、太陽の光に脊中を乾していました。そのとき、太陽は、やさしく、かわずに向かっていいました。
「私は、この大空を毎日東から西に自由に歩いている。おまえは、その池をかってに泳ぎまわることができる。私は、空の大王と呼ばれている。してみると、おまえは、池の王さまだ。私は今日から、おまえを池の王さまにしてやる。それにしては、私が、すべてのものに対して恵み深いように、おまえは、池の中のものに対して、だれにでもしんせつでなければならない。」と、太陽は諭しました。
 わがままでとんまでありましたけれど、いたって人のいいかわずは、すぐに得意になってしまいました。
「おお、俺は、池の中の王さまになったんだ。この広い池はみんな俺の領地だ。なんと俺はえらいもんだろう。」と、かわずはあたりを見まわしました。
 それからというものは、かわずは、朝は太陽の上るとともに起き、夕べは、太陽の沈むときまで、ともに水の中をはねまわって、なにやらわからぬことを口やかましくいって、池の中を治めるためにいっしょうけんめいであったのであります。
 しかし池の底には、かわずのまだ知らない、いろいろな魚や、また恐ろしい虫などが棲んでいました。独り、水…

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