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いろいろな花
いろいろなはな |
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作品ID | 51020 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 2」 講談社 1976(昭和51)年12月10日 |
入力者 | ぷろぼの青空工作員チーム入力班 |
校正者 | 富田倫生 |
公開 / 更新 | 2012-07-06 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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さまざまの草が、いろいろな運命をもってこの世に生まれてきました。それは、ちょうど人間の身の上と変わりがなかったのです。
広い野原の中に、紫色のすみれの花が咲きかけましたときは、まだ山の端に雪が白くかかっていました。春といっても、ほんの名ばかりであって、どこを見ても冬枯れのままの景色でありました。
すみれは、小鳥があちらの林の中で、さびしそうにないているのをききました。すみれは、おりおり寒い風に吹かれて、小さな体が凍えるようでありましたが、一日一日と、それでも雲の色が、だんだん明るくなって、その雲間からもれる日の光が野の上を暖かそうに照らすのを見ますと、うれしい気持ちがしました。
すみれは、毎朝、太陽が上るころから、日の暮れるころまで、そのいい小鳥のなき声をききました。
「どんな鳥だろうか、どうか見たいものだ。」と、すみれは思いました。
けれど、すみれは、ついにその鳥の姿を見ずして、いつしか散る日がきたのであります。そのとき、ちょうどかたわらに生えていた、ぼけの花が咲きかけていました。ぼけの花は、すみれが独り言をしてさびしく散ってゆく、はかない影を見たのであります。
ぼけの花は、真紅にみごとに咲きました。そして日の光に照らされて、それは美しかったのであります。
ある朝、ぼけの枝に、きれいな小鳥が飛んできて、いい声でなきました。そのとき、ぼけの花は、その小鳥に向かって、
「ああ、なんといういい声なんですか。あなたの声に、どんなに、すみれさんは憧れていましたか。どうか一目あなたの姿を見たいものだといっていましたが、かわいそうに、二日ばかり前にさびしく散ってしまいました。」と、ぼけの花は、小鳥に向かっていいました。
小鳥は、くびをかしげて聞いていましたが、
「それは、私でない。こちょうのことではありませんか。私みたいな醜い姿を見たとて、なんで目を楽しませることがあるもんですか。」と、小鳥は答えた。
「こちょうの姿は、そんなにきれいなんですか。あなたの姿よりも、もっときれいなんですか。」と、ぼけの花は驚いてききました。
「私はいい声で唄をうたいますが、こちょうは黙っています。そのかわり私よりも幾倍となくきれいなんです。」と、小鳥は答えて、やがてどこにか飛び去ってしまいました。
ぼけの花は、そのときから一目こちょうを見たいものだと、その姿に憧れました。けれど、まだ野原の上は寒くて、弱いこちょうは飛んでいませんでした。
ある風の強い日の暮れ方に、そのぼけの花は音もなく散って、土に帰らなければなりませんでした。ついに、ぼけの花は、こちょうを見ずにしまったのです。
それから、幾日かたつと、野の上は暖かで、そこには、いろいろな花が咲き誇っていました。はねの美しいこちょうは、黄色く炎の燃えるように咲き誇ったたんぽぽの花の上に止まっていました。
ほかのいろい…