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空色の着物をきた子供
そらいろのきものをきたこども
作品ID51027
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-07-16 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 夏の昼過ぎでありました。三郎は友だちといっしょに往来の上で遊んでいました。するとそこへ、どこからやってきたものか、一人のじいさんのあめ売りが、天秤棒の両端に二つの箱を下げてチャルメラを吹いて通りかかりました。いままで遊びに気をとられていた子供らは、目を丸くしてそのじいさんの周囲に集まって、片方の箱の上に立てたいろいろの小旗や、不思議な人形などに見入ったのです。
 なぜなら、それらは不思議な人形であって、いままでみなみなが見たことがないものばかりでした。人形は新しいものとは思われないほどに古びていましたけれど、額ぎわを斬られて血の流れたのや、また青い顔をして、口から赤い炎を吐いている女や、また、顔が六つもあるような人間の気味悪いものの外に、鳥やさるや、ねこなどの顔を造ったものが幾つもならんでいたからです。片方の中には、あめが入っていると思われました。みんなは、これまで村へたびたびやってきたあめ売りのじいさんを知っています。しかし、そのじいさんはどうしたか、このごろこなくなりました。そのじいさんの顔はよく覚えています。けれど、だれも今日この村にやってきたこのじいさんを知っているものはなかったのです。
 じいさんはチャルメラを鳴らしながら、ずんずんと往来をあちらに歩いてゆきました。やがて村を出尽くすと野原になって、つぎの村へゆく道がついていました。
「なんだろうね、あの人形は? 口から血が出ていたよ。僕はあんなすごい人形を見たことがないよ。」と、三郎がいいました。
「僕だって見たことがないよ。あのあめ売りのじいさんは、はじめて見たのだよ。」と、友の一人がいいました。
「もっとそばへいってよく見ようか?」と、またほかの一人が、こわいもの見たさにいったのであります。
「ああ、いってみよう。」といって、三郎とその二人がじいさんの後を追いかけてゆきました。こわがってゆかずに往来に止まっていたものもあります。三人は、やがて野原の中をゆくじいさんに追いつきました。じいさんは赤い色の手ぬぐいでほおかむりをしていました。じいさんは知らぬ顔をしてさっさと歩いています。その後から三人は、ひそひそと話しながら、じいさんの前になっている箱の上をのぞいていますと、突然、
「このじいさんは人さらいだよ。」と、三人の後方から小声にいったものがありました。三人はびっくりして後ろの方を振り向くと、空色の着物をきた子供が、どこからかついてきました。みなはその子供をまったく知らなかったのです。
「このじいさんは、人さらいかもしれない。」と、その子供は同じことをいいました。これを聞くと三人は頭から水をかけられたように凄然として逃げ出しました。
 三郎は野原の中を駈け出しました。ほかの二人ももときた道をもどりました。すると、だれやら、三郎の後を追っかけてきました。三郎は自分独り道のない、こんなさびしい野…

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