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小さな草と太陽
ちいさなくさとたいよう |
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作品ID | 51032 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 2」 講談社 1976(昭和51)年12月10日 |
初出 | 「赤い鳥」赤い鳥社、1920(大正9)年11月 |
入力者 | ぷろぼの青空工作員チーム入力班 |
校正者 | ぷろぼの青空工作員チーム校正班 |
公開 / 更新 | 2012-01-02 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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垣根の内側に、小さな一本の草が芽を出しました。ちょうど、そのときは、春の初めのころでありました。いろいろの花が、日にまし、つぼみがふくらんできて、咲きかけていた時分であります。
垣根の際は、長い冬の間は、ほとんど毎朝のように霜柱が立って、そこの地は凍っていました。寒い、寒い天気の日などは、朝から晩まで、その霜柱が解けずに、ちょうど六方石のように、また塩の結晶したように、美しく光っていることがありました。そのそばに生えている青木の葉が黒ずんで、やはり霜柱のために傷んで葉はだらりと垂れて、力なく下を向いているのでありました。
けれど、春になりますと、いつしか霜柱が立たなくなりました。そして、一時は、ふくれあがって、痛々しそうに見えた土までが、しっとり湿っておちついていました。元気のなかった、憂欝な青木の葉も青い空をながめるように、頭をもたげました。赤い実までがいきいきして、ちょうど、さんごの珠のように、つやつやしく輝いて見えたのです。
そのころのことでありました。垣根の内側に、小さな一本の草が芽を出しました。草は、この世に生まれたけれど、まだ時節が早かったものか、寒くて、寒くて、毎日震えていなければなりませんでした。
そのはずで、いくら、木々のつぼみはふくらんできましても、この垣根の内側には、暖かな太陽が終日照らすことがなかったからであります。
「ああ、いつになったら、お日さまが私を暖めてくださるだろう。」と、草はつぶやいていました。
すると、この言葉を聞きつけた青木は、
「我慢をしろ、我慢をしろ、俺などは去年の秋から、日に当たらずにいるのだ。それでも黙って不平をいわないじゃないか、我慢をしろ、我慢をしろ。」といいました。
草はこういわれると、小さな頭を上げました。
「だって、おまえさんは大きいじゃないか、だから我慢もされようが、私はこんなに小さいのだ。」と、うらめしそうにいいました。
けれど、もう青木の木はなんとも答えませんでした。そして、黙っていました。
草は、昼間は、まだ我慢もできましたけれど、夜中になりますと、寒くて、寒くて、震えていました。そして、自分ながら枯れてしまわないかと、心配したほどでありました。
そのうちに、日はたちました。小鳥がさえずって、頭の上の高い空を飛んでゆくのを、たびたび聞きました。
「いつになったらお日さまは、私を照らしてくださるだろう。」と、草はつぶやいていました。
ある朝、草は、まぶしい光が、青木の葉にさしているのを見つけました。なんという美しい光だろう。草は驚いて、その黄金の溶けて流れたような光線を見ていますと、やがてその光は、赤い青木の実に燃えつきました。すると、さんごの珠のような実は、すきとおって見えるように、美しかったのです。草は、ただ、あ、あ、とため息をもらしているばかりでした。
けれど、それ…