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三匹のあり
さんびきのあり
作品ID51038
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-18 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 川の辺に、一本の大きなくるみの木が立っていました。その下にありが巣を造りました。どちらを見まわしても、広々とした圃でありましたので、ありにとっては、大きな国であったにちがいありません。
 ありには、ある年、たくさんな子供が生まれました。それらの子供のありは、だんだんあたりを遊びまわるようになりました。するとあるとき、それらの子ありのお母さんは、子供らに向かっていいました。
「おまえがたは、あのくるみの木に上ってもいいけれど、けっして、赤くなった葉につかまってはならぬぞ。いまは、ああしてどの葉を見ても、真っ青だけれど、やがて秋になると、あの葉が、みんなきれいに色がつく、そうなると危ないから、きっと葉の上にとまってはならぬぞ。」と、戒めたのでありました。
 ある日のこと、五匹の子ありが外に遊んでいて、大きなくるみの木を見上げていました。
「なんという大きな木だろう。こんな木が、またとほかにあるだろうか。」と、一匹のありがいいました。
「まだ世界には、こんな木がたくさんあるということだ。これより、もっと大きな木があるということだ。」と、ほかの一匹の子ありがいいました。
「お父さんや、お母さんは、あの木のてっぺんまで、お上りになったといわれた。僕たちも、どこまでいけるか上ってみようじゃないか。」と、ほかの一匹のありがいいました。ついに五匹の子ありは、大きなくるみの木に上っていきました。そこで、中途までいった時分には、五匹とも疲れてしまって、しばらく、枝の上に休んで、物珍しげに、あたりの景色などをながめていました。
「なんという、大きな河だろうか。」といって、一匹のありは下を見おろしていました。
「なんという広い野原だろう。」と、ほかの一匹が驚いていいました。太陽は、ちょうど木のてっぺんに輝いていました。するとそのとき、
「あの枝に、あんなにきれいな葉があるじゃないか。あのそばまでいってみよう。」と、一匹のありが叫びました。
 二匹のありは、あの赤い葉こそ危険だと、お母さんやお父さんがいわれたのだから、ゆくのはよしたがいいといいました。けれど、ほかの三匹のありは、どうしてもいってみるといいはりました。
 二匹の子ありは、そこから三匹のお友だちに別れて地の上へ帰ることになりました。そこには、こいしいお母さんやお父さんがすんでいられました。そして、三匹の子ありは、赤い美しい葉を目指して上っていきました。三十分ともたたないうちです。風がきますと、いままでの、美しい赤い葉は、ぱたりと枝から空に離れて、ひらひらと舞って、下の川の中に落ちてしまいました。いうまでもなく、その赤い葉の上には、三匹の子ありがとまっていたのでした。
 三匹のありは、あまり不意なことにびっくりしましたが、気がついたときには、赤い葉の上に乗って、川の上を流れていたのです。三匹のありは、いまはじめてお母さん…

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