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二つの運命
ふたつのうんめい
作品ID51048
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-06 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 風の出そうな空模様の日でありました。一ぴきのせみが、小さなこちょうに出あいました。
「なんだか怖ろしいような空模様ですね。今夜はあれるかもしれません。早く家へ帰りましょう。」と、せみはいいました。
 正直なこちょうは、空を見上げて、
「ほんとうに暗くなりました。あんなに雲ゆきが早うございます。早く家へ帰りましょう。」と答えました。
 そこで、ふたりは、風に吹かれながら空を飛んできましたが、小さなこちょうは、おくれがちなので、せみはもどかしく思いました。
「こちょうさん、あなたのお家はどこですか。」とききました。
「私の家は、あちらの花圃です。あすこには姉も妹もきて待っています。」と答えました。
「あんな頼りのない花圃なんですか、今夜の大風をどうして、あんなところで防ぐことができますか。」と、せみはあきれたような顔つきをしていいました。
 こちょうは、また空を見上げました。ますますものすごく空の景色はなっていくばかりです。
「あなたのお家は、どこですか。」と、こちょうはせみにたずねました。
「私の家ですか。それは大きな木です。もうすこしいくと、その木が見えるはずです。こんもりとしげっていて、風や雨が、めったにさらすものではありません。どんな大風が吹いても、それは安全なものです。私たちには、とてもあなたのようなおぼつかない生活はできないのです。」と、せみは得意になって答えました。
 あちらには、黒いこんもりとした大きな木が見え、こちらには、きれいな花のたくさん咲いている花圃が見えました。二人は、別れなければなりませんでした。
「そんならこちょうさん、今夜をお気をつけなさいまし。また、ふたりが無事でしたら、お目にかかりましょう。」と、せみはいいました。
「あなたも、どうぞご機嫌よう。私は、あなたの幸福を神さまに祈っています。」と、こちょうはいいました。そして、右と左に分かれていきました。
「ほんとうに、あの哀れなこちょうに、ふたたびあわれるだろうか。」と、せみは途すがら考えました。
 はたして、その夜の暴風雨といったら、たとえようのないほど、ものすごかったのであります。せみは、大木に止まっていましたが、幾たび振り落とされようとして、びっくりしたかしれません。そして、ろくろく眠ることすらできなかったのです。しげった枝の間から、雨は落ちてきました。大波の打ち寄せるように、また水の泡だつように、葉は音をたてて騒ぎました。せみは不安で生きているような気持ちはしなかったのです。
「かわいそうに、この暴風雨で、あのこちょうは死んでしまったろう。」と、せみは、怖ろしいうちにも、こちょうのことを思い出していました。
 翌日、雨がはれ、風が止むと、せみは花圃の方へこちょうのようすを見ようと飛んでいきました。そのとき、ちょうど彼は、こちょうに出あいました。
「ご機嫌よう。」と、こち…

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