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星の子
ほしのこ
作品ID51055
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「婦人公論」1923(大正12)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-09 / 2014-09-16
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、子供をかわいがっている夫婦がありました。その人たちの暮らしは、なにひとつとして不足を感ずるものはなかったのでありましたから、夫婦は、朝から晩まで、子供を抱いてはかわいがっていることができました。
 子供は、やっと二つになったばかりの無邪気な、かわいらしい盛りでありましたので、二人は、子供の顔を見ると、なにもかも忘れてしまって、ただかわいいというよりほかに思うこともなかったのであります。
「どうしてこんなに無邪気なのでしょうね。赤ちゃんの目には、なんでも珍しく見えるのでしょうね。ほんとうに、こんなときは神さまも同じなんですわね。」と、妻は、夫に向かっていいました。
 夫も目を細くして、じっとやさしみのある目を子供に向けて、妻の言葉にうなずくのでありました。二人は、同じように、我が子をかわいがりましたが、中にも妻は女であるだけに、いっそうかわいがったのであります。
 しかし、この世の中は、美しい、無邪気なものが、つねに、神に愛されて変わりなしにいるとばかりはまいりません。美しい、無邪気なものでも、冷酷な運命にもてあそばれることがたびたびあります。それはどうすることもできなかったのでありました。
 こんなに、二人が大事にしていた子供が病気にかかりました。二人は、どんなに心配をしたでしょう。あらんかぎりの力をつくしたにもかかわらず、小さな、なんの罪もない子供は、幾日か高い熱のために苦しめられました。そして、そのあげく、とうとう花びらが、むごたらしい風にもまれて散るように、死んでしまいました。
 その後で、この二人のものは、どんなに悲しみ、なげいたでありましょう。自分たちの命を縮めても、どうか子供を助けたいと、心の中で神に念じたのも、いまは、なんの役にもたちませんでした。
「この世の中には、神も仏もない。」と、二人はいって、神をうらみました。
 それからというものは、りっぱな家も、広い屋敷も、ありあまるほどの財産も、二人の心を満たすことはできませんでした。二人は、もし、それらのものを亡くした子供と換えることができたら、あるいはそれらのものを投げ出すことを惜しむものではなかったかもしれません。どんな貴重のものも、子供とは、とうてい比較になるものではないと、しみじみこのときだけは感じたのであります。
 二人は、金を惜しまずに、子供のために、美しい、小さな大理石の墓を建てました。そして、そのまわりに花の咲く木や、いろいろの草花を植えました。けれど、これだけでは、かぎりない思いやりに対して、その幾分をも消すことができなかったのです。
 寒い風の吹く、暗い夜に、女は、いまごろ、子供は墓の下で目を覚まして、どんなにさびしがっているだろうかと思うと、泣かずにはいられませんでした。
 すると、男はいいました。
「なんで、あの凍った冷たい地の下などにいるものか。いまごろ…

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