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人の身の上
ひとのみのうえ
作品ID51057
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2019-03-30 / 2019-02-22
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 お花は、その時分叔父さんの家に雇われていました。まだ十七、八の女中でありました。小学校へいっていたたつ子は、毎日のように叔父さんのお家へ遊びにいっていました。叔父さんも、叔母さんも、たつ子をかわいがってくださいましたから、ほとんど、自分の家も、かわりがなかったのであります。
 叔父さんの家には、お花のほかに、もう一人お繁という女中がおりました。年はかえって一つか二つ、お花よりは少なかったかもしれませんが、よく働いて、よく気がついて、気の短い叔父さんの気にいりでありましたけれど、どういうものかお花は、よくいいつかったことを忘れたり、また、晩になると、じきに居眠りをしましたので、よく叔父さんから、小言をいわれていました。
「もっと、気をしっかりもたなければならんじゃないか。」と、叔父さんにいわれると、
「はい……はい。」といって、さすがに、顔を赤くして返事をしましたが、すぐ、その後から忘れたように、物忘れをしたり、夜になると居眠りをはじめました。
 これにひきかえて、お繁のほうは、なにからなにまで、よく気がつきました。それでありますから、よく叔父さんにも、叔母さんにも、かわいがられていました。叔母さんは、なにかにつけてもお花を不憫に思って、「よく、気をおつけ。」と、やさしくいい聞かされました。
 けれど、やはりだめでした。お花は、いいつけられた用事を満足にしたことがなかったのです。叔父さんは、
「あの子はだめだ。ほんとうに、ろくな暮らしはしないだろう。」と、叔母さんに向かっていっていられました。
「ほんとうに、困ったものです。」と、叔母さんは、眉をひそめて答えていられました。ある日のこと、叔父さんは、お花が、とても役にたたないから、暇をやってしまうと、叔母さんに向かっていっていられました。
 たつ子は、そのそばにいて、いわれたことを聞いていたのでありますが、お花がこれまで自分にやさしかったこと、あるときは、丁寧に髪を結ってくれたこと、あるときは、お手玉を作ってくれたことを思い出すと、なんだかかわいそうでなりませんでした。
「叔父さん、お花がかわいそうです。どうかお家に置いてください。」と、叔父さんにお願いいたしました。叔母さんもまた、
「わるいという性質ではなし、気がきかないというだけなのですから、もう一度、よく、わたしからいい聞かせますから。それで、いけなかったときに、暇をやることにしてください。」と、頼まれました。
 そのときは、二人の言葉に、やむなく、気短の叔父さんも我慢をせずにはいられませんでした。たつ子は、心の中で、もしお花がこの家から出されたら、その先は、どんな家にゆくであろうか、どこへいってもしかられはしまいか、そして、その行く先がいい家ならいいが、もしも、よくない家であったら、かわいそうだと思いました。もう一つは、お花と別れたら、おそらく、もう…

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