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ふるさとの林の歌
ふるさとのはやしのうた
作品ID51062
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「赤い鳥」1921(大正10)年12月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-09 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 娘は毎日山へゆきました。枯れ枝を集めたり、また木の実を拾ったりしました。
 そのうちに、雪が降って、あたりを真っ白にうずめてしまいました。娘は家の内で親の手助けをして、早く春のくるのを待ったのであります。それは、どんなに待ち遠しいことでありましたでしょう。やがて、物憂い、暗い冬が、北へ、北へとにげていきました。
 春になると、雪がだんだん消えてしまいました。野にも、山にも、いろいろな花が咲きました。その季節が過ぎると、山には、こんもりとした緑の葉がしげって、暖かな心地よい風が岡にもふもとにも吹き渡りました。大空は美しく晴れて、うららかな日の光がみなぎったのであります。
 娘は、朗らかな声で歌をうたいながら、山へ入ってゆきました。春、夏、秋、冬はこうして過ぎました。そして、娘は、だんだん大きくなったのであります。
 ある日のこと、娘は、山の林の中へいつものごとく入ってゆきました。すると一羽のかわいらしい小鳥が、いい声で鳴いていました。彼女は、しばらく立ち止まって、その小鳥の枝に止まって鳴いているのを見守っていましたが、
「ああ、なんというかわいらしい小鳥だろう。あの真っ黒な目のきれいなこと、ほんとうにほんとうにかわいらしいこと。」と、彼女はいいました。
 すると、この言葉を聞きつけて、小鳥は歌をやめて、じっと娘の方をながめていました。
「どうか私をかわいがってください。」と、小鳥はいいました。
「私は、兄弟も、姉妹もない独りぼっちなのです。毎日、この林の中をさまよって、独りでさびしく歌っています。」と、小鳥はつづけていいました。
 娘は、小鳥のいうことを聞くと、
「かわいい小鳥さん、私は、かわいがってあげますよ。しかしどうして、そんなにおまえさんの目は、すきとおるように美しいんでしょう。」と問いました。
「それは、私は、生まれてから、まだ、汚いものを見たことがないからです。死んだお母さんは、私に向かって、けっして、町の方へいってはならない。もし町の方へ飛んでいって、そこでいろいろなものを見ると、おまえの目はそのときからにごってしまう。また光を失ってしまう。おまえは、この青々とした松林と清い谷川の流れよりほかに見てはならない。もし、わたしのいうことを守れば、おまえはいつまでも若く、美しいと申しました。」
「まあ、おまえさんは、そのお母さんの仰せを守っているのですか。」と、娘は小鳥を見つめました。
「さようでございます。私のお友だちは、町の方へ飛んでゆきました。そして、いったぎりで帰ってこないものもあります。また、帰ってきて、しばらくこの林の中に止まっていたものもありますが、長くはしんぼうがしきれずに、ふたたびかなたの空を慕って飛んでゆきました。こうして出かけていったものも、それきり帰ってきませんでした。」と、小鳥は答えました。
「それで、町を見てきた、お友だち…

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