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紅すずめ
べにすずめ
作品ID51065
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「早稲田文学」1921(大正10)年8月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2013-06-23 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある日のこと、こまどりが枝に止まって、いい声で鳴いていました。すると、一羽のすずめが、その音色を慕ってどこからか飛んできました。
「いったい、こんなような、いい鳴き声をするのが、俺たちの仲間にあるのだろうか。」と、すずめは不思議に思ったのです。
 すずめは、すぐ、こまどりがとまって鳴いているそばの枝に下りてとまりました。そして、鳴いている鳥をつくづく見ると、姿といい、大きさといい、また、その毛色といい、あんまり自分たちとはちがっていなかったのです。
 すずめは、考えてみると不平でたまりませんでした。なぜ、自分たちにも産まれてから、こんないい鳴き声が出せないのだろう。同じように翼があり、またくちばしがあり、二本の足があるのに、どうして、こう鳴き声だけがちがうのだろう。もし、自分たちも、こんないい声が出せたなら、きっと、人間にもかわいがられるにちがいないと思いました。
 すずめは、心の中に、こんな不平がありましたけれど、しばらく黙って、こまどりの熱心に歌っているのに耳を傾けて聞いていました。すると、またこのとき、このこまどりの鳴き声に聞きとれたものか、どこからか一羽のからすが飛んできて、やはりその木の近くの枝に止まりました。
 からすが、強く羽音をたてて、飛んできたのを知ると、こまどりは、さもびっくりしたようですが、やはり知らぬ顔をして歌いつづけていました。
 すずめは、こうして自分たちとあまりようすの違わないこまどりが、みんなからうらやまれるのを見て、ますます不平でたまりませんでした。ついに、すずめは、こまどりに向かってたずねたのです。
「こまどりさん。どうしてあなたは、そんないい声をもっておいでなのですか、その理由を私に聞かしてください。私も同じ鳥ですから、そして、あなたとは格別ちがっていないように思っていますが、だれがあなたに、そんないい音色を出すことを教えたのですか、私にきかせてください。私も、ぜひ、いって教わってきますから。」といいました。
 このとき、こまどりは、はじめて歌うのをやめました。そして、すずめの方を向いて、
「すずめさん、お疑いは無理もありません。しかしこれには子細のあることです。あなたはあの日輪が、深い谷間に沈んでいたときのことをお知りですか。私たちの先祖は、ちょうどここにいなさるからすさんのご先祖といっしょに、日輪を谷から、綱で縛って空へ引き上げるときに、骨をおったのです。私たちの先祖は、みんなをはげますために、笛を吹いたり、笙を鳴らしたり、また歌をうたったりしたのでした。それで、孫子の代までも、こんないい鳴き声が出されるようになったのです。あなたたちの先祖は、そのとき、やはり畑や、野原を飛びまわっていて、べつに手助けをしなかったから、のちのちまでも平凡に暮らしていなさるのです。」と、こまどりはいいました。
 これを、黙って聞いてい…

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