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汽車の中のくまと鶏
きしゃのなかのくまとにわとり
作品ID51070
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-12-05 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある田舎の停車場へ汽車がとまりました。その汽車は、北の方の国からきて、だんだん南の方へゆくのでありました。どの箱にも、たくさんな荷物が積んでありました。どこかの山から伐り出されたのであろう、材木や掘り出された石炭や、その他いろいろなものがいっぱいに載せられていました。その中の、一つの箱だけは、扉がひとところ開いていました。そして、その中には、黒い鉄のがっしりしたかごの中に、一頭の大きなくまが、はいっていました。
 北の寒い国で捕らえられた、この力の強い獣物は、見せ物にされるために、南の方へ送られる途中にあったのです。しかし、くまには、そんなことはわかりませんでした。ただ太い鉄棒でつくられたかごの中へ入れられて、そのかわいらしい円い目で、珍しそうに、移り変わってゆく、外の景色をながめていたのでありました。このくまにも、親や兄弟はあったのでありましょう。しかし、それらは、いま険阻な山奥に残っていて、捕らえられたくまのことを思い出しているかもしれませんが、そのくまの故郷は、だんだん遠くなってしまったのです。このくまも、やはり毎日駆けまわった山や、谷や、河のことを思い出しているのかもしれませんでした。そのとき、ちょうど停車場の構内に、鶏が餌をさがしながら歩いていました。ふと鶏は頭をあげると、貨車に鉄のかごがのせられてあって、その内から真っ黒な怖ろしい動物が、じっと円い光る目で、こちらを見ているのに出あってびっくりいたしました。鶏は、コッ、コッ、といって、友だちを呼ぼうとしました。すると、くまは、穏やかに話しかけました。
「私は、おまえさんをどうしようとするのでない。こんなかごの中へはいっているのでは、どうすることもできないではありませんか。私は、先刻から、おまえさんが餌を探しているのを見ていたが、なぜそんな砂地などをあちこちと歩きまわって、見つかりもしないのに、餌などを探しているのですか。おまえさんの大好きな米も、豆も、きびも、どこの野原にもたくさんあるじゃありませんか。なぜ、それを取って食べないのです。」
 鶏は、怖ろしいと思ったくまが、あまりやさしいので、二度びっくりいたしました。
「そうですか、どこにそんなにたくさん、米や、きびがあるのですか、教えてください。」と、鶏はいいました。くまは、かごの格子の目から、大きな体に比較して、ばかに小さく見える頭をば上下に振って、あたりをながめていました。
「なるほど、ここは家ばかりしか見えませんね。私は、ここまでくる長い間、どれほど、あなたがたが自由にすめる、いい場所を見てきたかしれません。おそらく、これからゆく先の途中にも、そんなようなところを見るでありましょう。幸いいまだれも見ていません。おまえさんは、私の乗っているこの貨車の中へお入りなさい。そして、いいところへ、私がつれていってあげますから。」と、くまはいいました…

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