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石をのせた車
いしをのせたくるま
作品ID51072
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「婦人之友」1921(大正10)年9月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-12-05 / 2014-09-16
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、だれといって頼るところのない、一人の少年がありました。
 少年は、病気にかかって、いまは働くこともできなかったのであります。
「これからさき、自分はどうしたらいいだろう。」と考えても、いい思案の浮かぶはずもなかったのです。
 いっそ死んでしまおうかしらんと考えながら、彼は、下を向いてとぼとぼと歩いてきました。いろいろな人たちが、その道の上をば歩いていましたけれど、少年の目には、その人たちに心をとめてみる余裕もなかったのであります。
 やはり、下を向いて歩いていますと、前を歩いているものが、なにか道に落としました。少年は、はっと思って顔を上げますと、先にゆくのはおばあさんでありました。おばあさんは、自分がなにか落としたのも気づかずに、つえをついてゆきかかりましたから、少年は、うしろから、おばあさんを呼び止めました、
「おばあさん、なにか落ちましたよ。」と、彼がいいますと、おばあさんは、はじめて気がついて、振り向きました。そして、道の上に、自分の落としたものを見て、びっくりして、
「まあ、ありがとうございます。よく知らしてくださいました。これは、私の大事なものです。」と、拾い上げて、それから曲がった腰を伸ばして、少年の方を見て礼をいいました。
「おまえさんは、いくつにおなりです。」と、この人のよいおばあさんは、話が好きとみえて少年に問いました。
「十五になります。」と、少年は答えました。
 おばあさんは、しげしげと少年の顔を見ていましたが、
「おまえさんは、どこかお悪いところはありませんか。」とたずねました。
「どうも弱くて困ります。体さえ強ければ働くのですが……。」と、彼はうなだれて答えました。
「それなら、湯治にゆきなさるといい。ここから十三里ばかり西の山奥に、それはいい湯があります。谷は湯の河原になっています。二週間もいってきなされば、おまえさんのその体は、生まれ変わったようにじょうぶになることは請け合いです。」
「それはほんとうですか?」と、少年は、生まれ変わったようにじょうぶになると聞いて、驚きと喜びとに飛び立つように思いました。
「ああ、それはほんとうだ。」と、おばあさんは答えました。そして、さっさとあちらへいってしまいました。
 少年は、おばあさんから、いいことを聞いたと思いました。
「しかし、その湯のあるところは、なんというところだろう。」と、しばらくたってから、少年は思い返しました。けれど、「なんでも、十三里ばかり西の山奥だということだから、西へいって、聞いたらばわからないこともあるまい。」と思いました。
 たとえ、そのように、いい温泉があったにしても、すこしの金をも持たない少年には、その温泉へいって治療をすることは、容易なことではなかったのであります。ただ、彼は自殺してしまうということだけは思い止まりました。
「そんないい温泉…

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