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初夏の不思議
しょかのふしぎ
作品ID51090
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「赤い鳥」1923(大正12)年6月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-02-24 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 百姓のおじいさんは、今年ばかりは、精を出して、夏のはじめに、早くいいすいかを町へ出したいと思いました。
 おじいさんは、肥料をやったり、つるをのばしたりして、毎日のように、圃へ出ては、
「どうかいいすいかがなりますように。」と、心の中で、太陽に祈りました。そのかいがあって、いいすいかがなりました。おじいさんは、ある朝そのすいかを車にのせて町の八百屋へ持ってゆきました。
「まあ、みごとなすいかですね。」と、それを見た、八百屋の主人もおかみさんも、びっくりしました。
「今年は、丹精のかいがあって、いいやつがなりました。」と、おじいさんは、ほくほくしました。
「それに、いつもよりか、早うございましたね。」と、八百屋の主人がいいました。
「お日さまの照りあんばいが、ばかにようございましたもので、こんなにいいやつがなりました。」と、おじいさんは、喜んで、自分の作ったすいかをながめながら、たばこをぱくぱくとすっていました。
「そうですとも、なかなかの丹精じゃありません。」と、八百屋の主人もおかみさんも、おじいさんに同情をしないものはありませんでした。
 おじいさんは、すいかを八百屋に卸して、自分はまた静かな平和な村に空車を引いて帰ってゆきました。これから、つぎつぎと生長する圃の野菜物に手をいれてやらなければなりません。それで、おじいさんは、なかなか暇というものがありませんでした。
 八百屋の主人は、小僧を呼びました。
「このすいかをかついで出て、売ってこい。」といいました。
 すこし値は高いが、はしりではあり、こんなにいいのだから、売れないことはないと、主人は考えました。
「もう、半月もたちゃ、すいかだって珍しくはない。いまなら値が張っても売れるだろう。」と、主人は、つけくわえていいました。
 小僧は、遠方から、この店に雇われてきていました。正直な少年でありましたが、生まれつきものをいうときに、どもる癖がありました。そして、急き込めばますますどもるのでありました。だから、小僧がものをいう時分には、耳たぶが赤くなって、平生でさえ、なんとなく、そのようすがあわれに見られたのであります。
 小僧は、主人にいいつかって、両方のかごに幾つかのすいかを分けていれました。それをかついで、町の中を売って歩きました。また、さびしい屋敷町の方へと、はいっていったのであります。
 ある家の前へきましたときに、女が呼び止めました。家の中から、もうそんなに若くはない、年をとった女が出てきて、
「どれ、すいかを見せておくれ。」といいました。
 小僧は、肩からかごをおろしました。
 女は、かごの中をのぞいて、いろいろすいかを取って見ていましたが、そのうちに、一つ一つ、値をききはじめました。小僧は、どもりながら、その値をば答えました。
「なんて、高いすいかだろう。」と、女は、びっくりしたように、大き…

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