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海ぼたる
うみぼたる
作品ID51097
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「赤い鳥」1923(大正12)年8月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-11-24 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある日、兄弟は、村のはずれを流れている川にいって、たくさんほたるを捕らえてきました。晩になって、かごに霧を吹いてやると、それはそれはよく光ったのであります。
 いずれも小さな、黒い体をして、二つの赤い点が頭についていました。
「兄さん、よく光るね。」と、弟が、かごをのぞきながらいいますと、
「ああ、これがいちばんよく光るよ。」と、兄はかごの中で動いている、よく光るほたるを指さしながらいいました。
「兄さん、牛ぼたるなんだろう?」
「牛ぼたるかしらん。」
 二人は、そういって、目をみはっていました。牛ぼたるというのは、一種の大きなほたるでありました。それは、空に輝く、大きな青光りのする星を連想させるのであります。
 その翌日でありました。
「晩になったら、また、川へいって、牛ぼたるを捕ってこようね。」と、兄弟はいいました。
 そのとき、二人の目には、水の清らかな、草の葉先がぬれて光る、しんとした、涼しい風の吹く川面の景色がありありとうかんだのであります。
 ちょうど昼ごろでありました。弟が、外から、だれか友だちに、「海ぼたる」だといって、一匹の大きなほたるをもらってきました。
「兄さん、海ぼたるというのを知っている?」と、弟は兄にたずねました。
「知らない。」
 兄は、かつて、そんな名のほたるを見たことがありません。また、聞いたこともありません。
 さっそく、兄は、弟のそばにいって、紙袋に包んだ海ぼたるをのぞいてみました。それは、普通のほたるよりも大きさが二倍もあって、頭には、二つの赤い点がついていましたが、色は、ややうすかったのであります。
「大きなほたるだね。」と、兄はいいました。あまり大きいので、気味の悪いような感じもされたのであります。
 二人は、晩には、どんなによく光るだろうと思って、海ぼたるをかごの中に入れてやりました。
「海ぼたるをもらったよ。」と、兄弟は、外に出て、友だちに向かって話しましたけれど、海ぼたるを知っているものがありませんでした。
 まれに、その名だけを知っていましても、見たといったものがありませんでした。もちろん、その海ぼたるについて、つぎのような話のあることを知るものは、ほとんどなかったのであります。
 昔、あるところに、美しい、おとなしい娘がありました。父や、母は、どんなにその娘をかわいがったかしれません。やがて娘は、年ごろになってお嫁にゆかなければならなくなりました。
 両親は、どこか、いいところへやりたいものだと思っていました。それですから、方々からもらい手はありましたが、なかなか承知をいたしませんでした。
 どこか、金持ちで、なに不自由なく暮らされて、娘をかわいがってくれるような人のところへやりたいものだと考えていました。
 すると、あるとき、旅からわざわざ使いにやってきたものだといって、男が、たずねてきました。そして…

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