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青い花の香り
あおいはなのかおり
作品ID51101
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-09-01 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 のぶ子という、かわいらしい少女がありました。
「のぶ子や、おまえが、五つ六つのころ、かわいがってくださった、お姉さんの顔を忘れてしまったの?」と、お母さまがいわれると、のぶ子は、なんとなく悲しくなりました。
 月日は、ちょうど、うす青い水の音なく流れるように、去るものです。のぶ子は、十歳になりました。そして、頭を傾けて、過ぎ去った、そのころのことを思い出そうとしましたが、うす青い霧の中に、世界が包まれているようで、そんなような姉さんがあったような、また、なかったような、不確かさで、なんとなく、悲しみが、胸の中にこみあげてくるのでした。
「そのお姉さんは、いまどうしていなさるの?」と、のぶ子は、お母さまに問いました。
「遠方へ、お嫁にいってしまわれたのよ。」と、お母さまも、その娘さんのことを思い出されたように、目を細くしていわれました。
「遠方へってどこなのですか。」と、のぶ子は黒い、大きな目をみはって、お母さまにききました。
「幾日も、幾日も、船に乗ってゆかなければならない外国なんだよ。」
 こう、お母さまがいわれたときに、のぶ子は思わず、目を上げて、空の、かなたを見るようにいたしました。
「ほんとうに、いま、そのお姉さんがおいでたなら、どんなにわたしはしあわせであろう。」と、のぶ子は、はかない空想にふけったのであります。しかし、その願いもかまわないばかりか、せめて、そのお姉さんの顔を一目でもいいから見たいものだと思いました。
「お母さま、そのお姉さんは、どんなお方でしたの?」と、のぶ子は、どうかして、そのかわいがってくださったお姉さんを、できるだけよく知ろうとして、ききました。
 お母さまは、また目を細くして、過ぎ去った日を思い出すようにして、
「それは、美しい娘さんだったよ。みんな通りすがる人が、振り向いていったもんです。」と、いわれました。
「どうか、そのお姉さんの写真でも見たいものです。」と、のぶ子は、ほんとうにそう思いました。
「いまごろ、どうなされたか。ほんとうに写真があったら、いいのだけれど……。」と、お母さまは、その後、たよりのない、娘さんのことを思い出して、やはりのぶ子と同じような悲しみを感じられたのでありました。
 その年の秋の、ちょうど彼岸ごろでありました。外国から、小さな軽い紙の箱がとどきました。
「だれから、きたのでしょうね。」と、お母さまはいって、差出人の名まえをごらんなさったが、急に、晴れやかな、大きな声で、
「のぶ子や、お姉さんからなのだよ。」といわれました。
 そのとき、のぶ子は、お人形の着物をきかえさせて、遊んでいましたが、それを手放して、すぐにお母さまのそばへやってきました。
「わたしをかわいがってくださったお姉さんから、送ってきたのですか?」と、のぶ子はいいました。
「ああ、そうだよ。」
 お母さまは、その小さい、軽…

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