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怪談牡丹灯籠
かいだんぼたんどうろう
作品ID51287
副題03 序詞
03 じょし
著者若林 玵蔵
文字遣い新字新仮名
底本 「圓朝全集 巻の二」 近代文芸資料複刻叢書、世界文庫
1963(昭和38)年7月10日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2010-03-24 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 文字能く人の言語を写すと雖も、只其の意義を失わずして之を文字に留むるのみ。其の活溌なる説話の片言隻語を洩さず之を収録して文字に留むること能わざるは、我国に言語直写の速記法なきが為めなり、予之を憂うること久し、依て同志と共に其の法を研究すること多年、一の速記法を案出して、屡々之を試み講習の功遂に言語を直写して其の片言隻語を誤まらず、其の筆記を読んで其の説話を親聴するの感あらしむるに至りしを以て、議会、演説、講義等直写の筆記を要する会席に聘せられ、之を実際に試み頗る好評を得たり。依て益々此の法を拡張して世を益せんことを謀るに方り、甞て稗史小説の予約出版を業とする東京稗史出版社の社員来って曰く、有名なる落語家三遊亭圓朝子の人情話は頗る世態を穿ち、喜怒哀楽能く人をして感動せしむること、恰も其の現況に接する如く非常の快楽を覚ゆるものなれば、予が速記法を以て其の説話を直写し、之を冊子と為したらんには、最も愉快なる小説を得るのみならず、従って予が発明せる速記法の便益にして必要なることを世に示すの捷径たるべしと、其の筆記に従事せんことを勧む。予喜んで会員酒井昇造氏と共に圓朝子が出席する寄席に就き請うて楽屋に入り、速記法を以て圓朝子が演ずる所の説話を其の儘に直写し片言隻語を改修せずして印刷に附せしは即ち此の怪談牡丹灯籠なり。是は有名なる支那の小説より翻案せし新奇の怪談にして、頗る興あるのみか勧懲に裨益ある物語にて毎に聴衆の喝采を博せし子が得意の人情話なれば、其の説話を聞く、恰も其の実況を見るが如くなるを従って聞けば従って記し、片言隻語を洩さず、子が笑えば筆記も笑い、子が怒れば筆記も怒り、泣けば泣き喜べば喜び、嬢子の言は優にして艶に、[#挿絵]夫の語は鈍にして訛る等、所謂言語の写真法を以て記したるがゆえ、其の冊子を読む者は亦寄席に於て圓朝子が人情話を親聴するが如き快楽あるべきを信ず。以て我が速記法の功用の著大なるを知り給うべし。但其の記中往々文体を失し、抑揚其の宜きを得ず、通読に便ならざる所ありて、尋常小説の如くならざるは、即ち其の調を為さゞる言語を直写せし速記法たる所以にして、我国の説話の語法なきを示し、以て将来我国の言語上に改良を加えんと欲する遠大の目的を懐くものなれば、看客幸いに之を諒して愛読あらんことを請う。
若林[#挿絵]藏識



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