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少年たち
しょうねんたち |
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作品ID | 51352 |
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原題 | МАЛЬЧИКИ |
著者 | チェーホフ アントン Ⓦ |
翻訳者 | 神西 清 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「カシタンカ・ねむい 他七篇」 岩波文庫、岩波書店 2008(平成20)年5月16日 |
入力者 | 米田 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2010-07-18 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 15 ページ(500字/頁で計算) |
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「ヴォローヂャが帰ってきた!」と誰かがおもてで叫んだ。
「ヴォローヂャちゃんがおつきになりましたよ!」と、食堂へかけこみながら、ナターリヤが叫んだ。「ああ、よかった!」
かわいいヴォローヂャの帰りを、今か今かと待っていたコロリョーフ家の人びとは、みんなわれがちに窓べへかけよった。車よせのところに、幅の広いそりがとまっている。三頭立ての白い馬からは、こい霧がたちのぼっていた。そりは、からっぽだった。というのは、早くもヴォローヂャが玄関さきにおり立って、赤くかじかんだ指さきで頭巾をほどきにかかっていたからだ。彼の中学生用の外套も、帽子も、オーバーシューズも、こめかみにたれさがった髪の毛も、すっかり霜をかぶって、頭のてっぺんから足のさきまで、そばで見ている者のほうがぞくぞく寒けがしてきて、思わず、≪ぶるるる!≫と言いたくなるような、すばらしくけっこうな寒さのにおいをはなっていた。お母さんとおばさんは、さっそくヴォローヂャにだきついてキッスをした。ナターリヤは、かれの足もとにかがみこんでフェルト靴をぬがせ始め、妹たちは金切り声をあげた。あっちこちの扉がきしみ、ばたんばたんと音をたてた。その中を、ヴォローヂャのお父さんが、チョッキすがたで手にはさみを持ったまま玄関へかけてきて、びっくりしたように叫びだした。
「きのうから、みんな待ってたんだよ! 途中、変わったことはなかったかい? ぶじだったんだね? どれどれ、ひとつ親子の対面をさせてもらおうか! はてな、わしは父親ではないのかい!」
「わん! わん!」と、ひどくからだの大きな黒犬のミロールドが、しっぽで壁や家具をたたきつけながら、太い声でほえた。
ものの二分ばかり、あたり一面わあっという喜びの声に包まれた、その喜びのあらしがおさまると、コロリョーフ家の人びとは、ヴォローヂャのほかに、もうひとり、えりまきや頭巾をつけて、やはり、霜をかぶった少年が玄関にいるのに気がついた。彼は、すみのほうの、大きなきつねの外套が投げかけている影の中に、身動きもしないで、じっと立っていたのだ。
「ヴォローヂャちゃん、こちらのお坊ちゃんは、どなた?」と、お母さんが小声でたずねた。
「ああ、そうそう」と、ヴォローヂャはやっと思いだしたように言った。「これはね、お友だちのチェチェヴィーツィン君、二年生なんです。……うちへお客に来てもらったの。」
「それはそれは、よく来てくださった!」と、お父さんはうれしそうに言った。「すみませんね、こんないいかっこうで……さあ、どうぞ、どうぞ! ナターリヤ、チェレピーツィンさん(名まえをまちがえて呼ぶのはたいへん失礼なことである)の外套をお取りして! やれやれ、この犬を追っぱらわにゃ、まったくこまったやつだ。」
しばらくすると、このそうぞうしい出迎えを受けて、ぼっとなったヴォローヂャと友だちのチェチェヴィ…