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「椿」序
「つばき」じょ |
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作品ID | 51376 |
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著者 | 田山 花袋 Ⓦ / 田山 録弥 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「定本 花袋全集 第二十七巻」 臨川書店 1995(平成7)年7月10日 |
初出 | 「椿」忠誠堂、1913(大正2)年5月5日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | hitsuji |
公開 / 更新 | 2022-05-13 / 2022-04-27 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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最近五六年間に書いた小品を集めて『椿』といふのは、別に意味のあることではない。丁度それを輯めようとする頃、椿の花が殊に私の眼に附いたからである。私は丁度其時友人のフランスに立つのを送つて、箱根まで行つた。国府津、酒勾、鎌倉の海岸には、葉の緑に、花の紅い野椿が到る処に咲いてゐて、それが降りしきる雨の中にはつきり見えてゐた。私は南国の春を想像した。椿油の出来る島々のことなどを思つた。それに、私の庭にも、椿の花が多い。父親の遺愛のものなどもある。私が書斎で筆を執つてゐると、をり/\花の落ちる音が重く聞えたりする。春の花の中で椿の花の印象が私にはかなりに多い。で、『椿』といふ名を此輯に得ることになつた。
大正二年四月
著者