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平仮名の説
ひらがなのせつ |
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作品ID | 51404 |
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著者 | 清水 卯三郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「明六雑誌(上)〔全3冊〕」 岩波文庫、岩波書店 1999(平成11)年5月17日 |
初出 | 「明六雜誌 第七號」明六社、1874(明治7)年5月17日 |
入力者 | 田中哲郎 |
校正者 | hitsuji |
公開 / 更新 | 2021-01-20 / 2021-08-29 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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維新の際、論者文字を改めて通用に便せんと欲し、あるいは平仮名を用いんと云い、あるいは片仮名を用いんと云い、あるいは洋字に改めんと云い、あるいは新字を作らんと云い、また邦語を廃して英語に改めんと云う者あり。また従前のごとく和漢雑用に従わんと云う者あり。しこうしてこれを問えばおのおのその説あり。しかれども天下のこと、通用便利を欠くときはその用に適せず、その用に適せざるときは教化訓導の術を損す。けだし邦語を廃して英語に改めんと云う者はもとより論を待たず。和漢雑用は古来すでに用うるところ、おおいにその用に適すといえども、天下これを読む者幾何人、はた字書ありというと云えども、草行の体に至りては、また如何せん。かの布告、著述のごとき、傍訓、助語の煩労ありて、天下これをよく了解する者、また幾許人ぞ。あるいは教授の至らざるなりといえども、もと学習の易からざるによる。かつそれ烟管・喜世留、硝子・玻璃、莫大小・目利安、不二山・冨士山の類、一物字を異にし、長谷、愛宕、飛鳥、日下、不入斗、九十九のごとく、別に字書を作るにあらざれば知るべからず。日蝕〈(にちしょく、[#改行]じっそく)〉、香港〈(かうこう、[#改行]ほんこん)〉、上海〈(しょうかい、[#改行]さんはい)〉、紫蘇〈(しそ、[#改行]ちそ)〉、昆布〈(こんぶ、[#改行]こぶ)〉の類、一物二音。清水〈(しみづ、きよみづ、[#改行]せいすい)〉、神戸〈(かうべ、かんべ、[#改行]かんど、ごうど)〉のごとき、一語数訓あり。新に字書を作ると云うといえども、いずれの訓か取て充つべきを知らず。かつ今日のごとく音語、新字陸続更出するときは、多年の苦学にあらざれば通常の書も読むこと能わず。しからばすなわち和漢雑用もまた、教化訓導のほか日用便利の器にあらず。また洋字に改むるものは、なお米飯をもって麺包に代え、味噌をもって酥酪に代るがごとし。その滋養は勝るるといえども、現にその不便を観る。しかれども、別に新字を作るものに勝るることあり。
けだしそれ、文字・文章は声音の記号、言語の形状にして、古今を観、彼此を通じ、約諾を記し、芸術を弘むる、日用備忘の一大器なり。まことに言語と異なるべからず。いやしくも言語と異なるときは、これを読んで喜怒愛楽の情、感動することなし。喜怒愛楽の情、感動することなきときは、教化、訓導の意を失す。かの田舎源氏、自来也物語、膝栗毛、八笑人、義太夫本、浄瑠理本のごとき、婦女童子もこれを読んでよく感動し、あるいは笑い、あるいは哀むもの、まことに言語・文章の相同きゆえんなり。ゆえに欧、米諸州のごとき、みな自国言語と同き文章をもって先務とす。米国のごとき、英と一様の言語なおよく自国の文章を作る。さらに英書翻刻のごとき、自ら改め編じて自国語脈の文章となす。その関するところ観るべし。近ごろ聞く、清国、生徒を他邦に学ばしむるに、…