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青い玉と銀色のふえ
あおいたまとぎんいろのふえ |
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作品ID | 51496 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 14」 講談社 1977(昭和52)年12月10日 |
初出 | 「たのしい三年生」1957(昭和32)年1月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2017-12-25 / 2017-11-24 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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北のさびしい海のほとりに、なみ子の家はありました。ある年、まずしい漁師であったおとうさんがふとした病気で死ぬと、つづいておかあさんも、そのあとを追うようにして、なくなってしまいました。かねて、びんぼうな暮らしでしたから、むすめのなみ子にのこされたものは、ただ青い玉と、銀色のふえだけでありました。
青い玉は、ずうっと昔、先祖のだれかが、この海べのすなの中からほり出して、それが代々家につたわったのだということでありました。
なにかねがい事があるとき、この青い玉にむかって、真心をこめておねがいすると、その心が神さまに通じてかなえられるというので、おかあさんはこの青い玉を、とてもだいじにしていました。
玉はつやつやしていて、深い海の色のように青黒く、どこまで深いのか、底が知れぬように、じっと見つめていると、引き入れられるような気がしました。
そして、真心をこめておいのりをすると、青い玉の表に、海の上をとびさる雲のように、いろいろなことが絵になってうかんできて、ゆくすえのことをおしえてくれるのでした。
また、あるときは、青い玉がまっかにほのおのようになって見えたり、玉にひびがはいったりして、不安な気持ちをいだかせることもありました。
「これには、ご先祖のたましいがはいっているんです。」といっておかあさんがこの青い玉をだいじにしたのも、ふしぎではありません。
おとうさんの持っていた銀色のふえは、その音色を聞くと、さびしいあら海にすさぶあらしのように、なんとなくひとりぼっちの感じを起こさせたり、またあるときは、反対に心を引きたてて、のぞみとよろこびをもたせることもありました。
そして、このふえの音がとどくところ、魚たちがその音をしたってよってくるので、思わぬ大漁がありました。
「まったくふしぎなふえじゃないか。」
「なんにしてもありがたいことだ。」
漁に出た人々は、なみ子のおとうさんの銀色のふえを手にとって、ふしぎそうにながめるのでした。
このふえもやはり、おじいさんのころからつたわっていましたので、これにも先祖のたましいがこもっていると、おとうさんは信じていました。
なみ子は、おとうさんが心をこめて、このふえをふいた日のことをおぼえています。
その日、海の上には、黒い雲がはびこり、いかにも北の国らしいものすごいけしきでした。
雲の間からいな光がもれ、かみなりが鳴っていました。
「こんな日には、はたはたがとれそうだ。」と、おとうさんはいいました。
そして、ひさしぶりに大漁にしてみんなをよろこばせたいと、銀色のふえを持っていきました。
おとうさんが船の上でふえをふくと、たくさんの魚が、波の上でおどりました。いかやさばも、むれをつくってよってきて、思わぬ大漁になりました。
「季節はずれに、こんなにいろいろな魚がとれたのも、みんなふえのおかげだ。」…