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新しい町
あたらしいまち |
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作品ID | 51499 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 13」 講談社 1977(昭和52)年11月10日 |
初出 | 「幼年クラブ」1947(昭和22)年8月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2018-09-04 / 2018-09-02 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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もくら、もくらと、白い雲が、大空に頭をならべる季節となりました。遠くつづく道も、りょうがわの町も、まぶしい日の光をあびています。戦争のためやけたあとにも、新しいバラックができ、いつしか昔のようなにぎやかさをとりかえし、この先発展をにおわせて、なんとなく、わかわかしい希望を感ずるのでありました。
道ばたの露店は、たいてい戦災者か、復員した人たちの、生活をいとなむのでありました。勇吉は、おかあさんと、毎日ここへでて、ろうそくや、マッチや、うちわなどをならべて、あきなっていました。
その前を通る人の中には、よごれた服をきて、まきぎゃはんをはき、おもそうなリュックをしょい、いま戦地から、もどったばかりというふうな人もありました。そうかと思うと、はでな着物をきて、美しい日がさをさす女の人もありました。
きょうは、勇吉ひとりで、露店へでていました。そして、おとうさんがまだ生きていてひょっこりかえってくるのではないかと、空想にふけりながら、あてもなく町の右や左をながめていました。
かれのとなりには、おじいさんが、げたの店をひろげていました。そのおじいさんは、なにかとせわをしてくれたり、うちとけて話をしてくれる、したしみぶかい人でした。だまっているときは、よくおじいさんは、いねむりをしていました。しかし、ねむりきっているのではないから、なんでも、よくわかっているようです。
「おじいさん、そこへへび屋ができましたね。」と、勇吉は話しかけると、
「もと、あちらの角にあったのが、やけたので、こっちへ、移ってきたのだろう。」と、おじいさんは、目をとじたままで、こたえました。
「前には、いろんな生きたへびが、びんの中に、入っていましたね。こんどは、生きたのがいませんよ。」
「そうかい、いなくなったか。」と、おじいさんはいって、だまってしまいました。それは、ねむってしまったのでなく、考えごとにふけったからでした。
おじいさんは、そのへび屋が、まだ、あちらの角にあってやけない前には、よく店さきに立って、びんにはいっている赤い目をした青いへびや、頭の大きい黒いへびをながめながら、それらのどくへびがすんでいるジャングルで病死した、おいのことを思ったのでした。
「あの子も、戦争さえなければ、死ななかったのに。」
ふと、おじいさんは、いまもまたそう思って、目をあけると、勇吉が、
「おじいさん、南方からは、もうみんな、復員してしまったでしょうね。」と、きいたのでした。
「なんでもそんな話だな。」
「やはり、うちのおとうさんは、死んでしまったのか。」と、勇吉は、つぶやきました。
「ううん。」と、おじいさんは、同情するようにいって、勇吉をば見ました。
「きょうは、おまえさんひとりなのか。おかあさんは、どうなさった。」
「弟がかぜをひいたので、休んだのです。」
「それはいけないな。今度の戦…