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兄と魚
あにとさかな
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出「こくみん三年生」1940(昭和15)年12月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-06-29 / 2018-05-27
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 正二は、夏のころ、兄さんと川へいっしょにいって、とってきた小さな魚を、すいれんの入っている、大きな鉢の中へ入れて、飼っていました。
 そのうちに、夏も過ぎ、秋も過ぎてしまって、魚は川にいれば、もう暖かな場所を見つけて冬ごもりをする時分なのに、鉢の中では、そんなこともできませんでした。
 寒い風が、野の上や、森をふく、ある日のことでありました。
「おや、魚が死んでいる。正ちゃん、早くおいで。」と、庭へ出た兄さんが呼びました。
「かわいそうに。」と、正二はいいながら、走ってそのそばへいきました。
 鉢の中には、水がいっぱいあって、すいれんの葉は、いつのまにか枯れて、水の底の方に沈んでいました。
「これは、たなごだね。」
「こいみたいだな。」
「いいや、たなごさ。かわいそうに、こんなにやせてしまって、栄養不良で死んだのだよ。」と、兄は手のひらにのせて、悲しそうに、ながめていました。
「僕、ときどき、ふをやったんだけれど。」と、正二がいいました。
「川にいれば、いろいろのものを食べるから、大きくなるのだけれど、こんないれものの中では、ほかに食べるものがないだろう。正ちゃん、あとの二匹をかわいがってやろうね。」と、兄さんは、底の方にかくれるようにしている魚をのぞきながらいいました。
 正二は、自分たちのいった川は、いま冷たい水が、ゴウゴウと音をたてて流れているだろうと思うと、あとの二匹をその川へ逃がす気にもなれなかったのです。
「兄ちゃん、あとのは、かわいがってやろうよ。」
「ほかのいれものに移して、お家の中へおこうね。そうして春になったら、また、ここへ入れることにしよう。」
「ごはんつぶをやろうか。」
「冬は、あまりものを食べないものだ。それより、あたたかにしてやるほうがいいのだよ。」
 正二は、兄が手に持っている魚をどうするだろうと思って見ていました。
「正ちゃん、手すきを持っておいで。」と、兄は、いいました。
 正二がものおきから、手すきを取り出してくると、兄はつばきの下に穴を掘りました。
「ああ、ここへうめてやるのだな。」と、正二が見ていると、兄は、落ち葉を探してきました。正二は、なにをするのだろうと、黙って見ていると、穴の下へその枯れ葉をしきました。そして、死んだ魚をその葉の上へのせました。それからまた、枯れ葉をその上へしいて、土をかけたのであります。
 終わりまで、黙って、これを見ていた正二は、やさしい兄の心持ちがよくわかりました。
「いい兄さんだな。」と、思いました。
「川でとってきてから、こんなに長くいたんだもの、あとの二匹を殺しちゃ、僕たちが悪いのだよ。どうかして、この冬を越すように、かわいがってやろうね。」と、兄さんはいいました。
 正二も、そうだと思いました。部屋へおくようになってから、寒い晩は、水をこおらせないようにしました。また、お天気にな…

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