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おかまの唄
おかまのうた
作品ID51511
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出「良い子の友」1945(昭和20)年10月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2020-02-08 / 2020-01-24
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 松林で、聞きなれた鳥の声がしました。窓をあけると、やまがらやしじゅうからが、枝から枝をつたって鳴いていました。
「僕のにがしたやまがらではないかな。」
 少年が、じっとその姿を見ていました。遠い町で逃がしたのが、どうして、ここまで飛んでこられよう、と思いました。
 戦争のさいちゅうで、もし家が焼けたら、かごの中の鳥がかわいそうだといって、自分はかわいいやまがらを逃がしたし、友だちも、おなじ日に、べにすずめを逃がしたのでした。
「君のべにすずめは、南の国へ飛んでいくし、僕のやまがらは、北のふるさとへ帰るだろう。」
 二人はよろこんで、飛んでいった小鳥を見送ったのでした。
 少年は、それからまもなく、お祖父さん、お祖母さんのすんでいられる田舎へ、疎開しました。この古いお家で、お父さんが子供のとき、本を読んだり、字を書いたりなさったのだろう。またお祖父さんは、
「これから、いろいろの鳥が、裏の林へくる。雪が降ると、山鳥もうさぎもくる。そうしたら、捕ってやるぞ。」といわれました。
 青々とした木々の葉が、いつのまにか、みごとに赤く、黄色くいろづきました。すこしはなれた畑には、かきの実がたくさんなっていたし、あちらの垣根のすみには、山茶花が、しめった地面の上に散って、いちめん、貝がらをしいたようでした。
 小鳥たちがいなくなったと思うと、さあっと、風が林をかける音がして、つづいて、パラパラと、なにかの木の実が落ちる小さな音がしました。
「どんぐりかしらん?」
 ひとりごとをいって、少年は頭をかしげていました。田舎へきてから、友だちが少ないのでさびしかった。そんなとき、東京がこいしくなるのでした。けれど、いつもお祖父さんが、
「雪が降ると、スキーはできるし、また、きじの子やうさぎを打ってやるから、来年の春まで、こっちにいるがいい。」と、おっしゃると、その気になるのでした。お祖母さんまで、
「お正月がくれば、おまえのすきなおもちをついてやるし、甘酒もこしらえてやる。」と、おっしゃるのでした。
 なんで少年は、うれしくないことがありましょう。そればかりではなく、せっかくしたしくなった村の学校のお友だちとも、わかれたくなかったのです。それであるから、
「僕、すっかりなれてしまった。」と、元気よく答えるのでした。
「ほんとうか。それなら、いっそこっちの子になるか。」と、お祖父さんは、にこにこしながらいわれました。
「いいけど、さびしいんだもの。」
 これは、いつわらぬ少年の心のうちでありました。生まれたときから、明るい空、いつも花の咲いている景色しか知らないのが、まったく、ちがった自然に接したからでした。
 海を見れば、青ぐろい色をして、波の底には、どんなものがすんでいるだろうかと思われ、高い山を見れば、山の向こうにも町があって、人や馬が歩いているだろう、と考えさせられるので…

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