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うみぼうずと おひめさま
うみぼうずと おひめさま
作品ID51536
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 16」 講談社
1978(昭和53)年2月10日
初出「小学一年生 5巻6号〜6巻4号」1949(昭和24)年8月〜1950(昭和25)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者笹平健一
公開 / 更新2023-04-07 / 2023-03-27
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 うみぼうずは しょうたいの わからない おばけです。
 まっくろな からだを して、海の そこに すみ、きかんぼうずで わがままかってに ふるまって います。
 だから、みんなから きらわれて います。なにか 気に いらない ことが あると、あばれまわります。海の 水を まきあげ、くろくもを おこし、つなみを たて、あたりを さわがせます。
 さかなや、海に すむ けものたちは、いきの ねを ひそめて、小さく なります。もし そんな とき、ちょうど、ふねでも きかかろうものなら、たいへんです。
「やい、おれさまの いるのが わからぬか。」
と、うみぼうずは 大きな 手で、ふねを たかく もちあげ、あっと いう まに、海の そこに しずめて しまいます。けれど、だれも それを とめる ことが できません。
「また、むほうものの うみぼうずが さわぎだした。こまった ものですね。」
と、りゅうぐうの ごてんに すむ おひめさまは、まゆを おひそめに なりました。
 大きな くじらまで、
「これは かなわん。」
と いって、どこかへ にげだしました。
 たいや いかや いわしなどの 小さい さかなたちは、なみに もまれて、目を まわして いました。
「おひめさま、どうぞ おたすけください。」
と、ごもんの ところへ あつまりました。どんなに つよい かみさまも 手が つけられないし、こういう ときは、やさしい おひめさまの お力に たよるより ほかに、しかたの ないのを、よく しって いたからです。
「すこしの あいだ おまちなさい。」
と、おひめさまは おっしゃいました。
 うみぼうずは、ところきらわず あばれまわった ものだから、だんだん つかれて きました。
 この とき、どこからとも なく、いい おんがくが きこえて きました。



「はてな。」
と、うみぼうずは、あたまを あげて あちらを みると、赤や 青の きものを きた むすめたちが、うつくしい おひめさまを とりまき、ふえを ふいたり たいこを たたいたり、また、おもしろい 手つきで、おどって いるので ありました。
 うみぼうずは いましがた じぶんが あばれたのを おひめさまたちに みられたのかと おもうと、きはずかしく なって じっとして いられず、くらい 海の そこへ かくれて しまいました。
 たちまち、くろくもが きえ、あらしが しずまって、空の いろが きれいな うすももいろに さえました。

 町でも、おとなや 子どもたちが よろこびました。
「どうして こんな えらい あれが したんでしょう。」
と、たけちゃんが おばあさんに ききました。
「うみぼうずが あばれたんだよ。」
と、おばあさんは おっしゃいました。
 そこへ、さんちゃんと きみこさんが あそびに きまし…

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