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おじさんの うち
おじさんの うち
作品ID51538
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 16」 講談社
1978(昭和53)年2月10日
初出「子どもクラブ」1948(昭和23)年2月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者笹平健一
公開 / 更新2024-10-18 / 2024-10-17
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 あちらの 森の ほうで、ふくろうが なきました。さむい 風が ふいて、ほしの ひかりは ふるようです。ぼくの おじさんの うちは、もっと もっと、とおい ところでした。
 町を はなれて、どこか さびしい のはらを、でんしゃの はしる 音が ゴウゴウと きこえます。夜が ふけて、あたりが しんとしました。
 けれど、ぼくの おじさんの うちは、もっと もっと、とおい ところでした。
 夕日が 赤く 西へ しずんで、くもの いろが うつくしい 花びらのように、空を いろどります。そんな とき、ぼくは みちの 上に たって、ぼんやりと おじさんの うちを おもいだすのでした。
「いまごろ たけちゃんは どうして いるだろうか。」
と。
 たけちゃんは ぼくと なかの いい、いとこでした。おじさんの うちへ いくには きしゃに のって、いくつも トンネルを とおり、山を こし、また 大きな 川に かかる てっきょうを わたり、二キロばかり あるかなければ なりません。
 ある 年、ぼくが 秋の すえに いくと、にわに さざんかや きくの 花が さいて いました。はちは すでに いなく なったけれど、あぶが どこからか 花に とんで きて、金いろの はねを ならしました。また、ゆずの 木に まっかな みが なって いるのも、ぼくには めずらしいのでした。
「たけちゃん、あれは なんと いう とりだろうね。」
と、うめもどきへ きて、じゅくした みを たべ、いい こえで さえずる とりを さすと、
「あれ、しらないのかい、めじろだよ。まだ ほかにも いろんな とりが くるよ。」
と、たけちゃんは いいました。
 おじさんは、ぼくが もちを すきなのを しって いて、さっそく もちを ついて くださいました。また おばさんは とろろじるを つくって くださいました。
 おじさんの うちには ジョンと いう いぬと、ミイと いう ねこが います。どちらも、りこうでした。ジョンは 耳が たれて いたし、ミイの けいろは みけでした。ぼくが たけちゃんと うらの 山へ のぼると、ジョンも ついて きました。
 がけには はや、赤い つばきの 花や、かわいい すみれが さいて いました。そこから、南の ほうを のぞむと、むらさきいろの 海が 目の まえに みえました。
 たけちゃんは、大きく なったら とうきょうへ いくけれど、それまで いなかの 子で いると いいました。ぼくは いつも、いく ときは うれしいが、かえりに みんなと わかれるのが、たまらなく かなしいのでした。
 このごろ、しきりと ぼくは、おじさんの うちを おもいだします。



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