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おとうさんが かえったら
おとうさんが かえったら
作品ID51541
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 16」 講談社
1978(昭和53)年2月10日
初出「こどもペン」1948(昭和23)年4月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者笹平健一
公開 / 更新2024-08-15 / 2024-08-12
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 やけあとの、たがやされた ところには、みどりいろの むぎが ふさふさと しげって いました。また、やわらかそうに みえる わかなに、きいろの 花が さいて いました。
 しかし、まだ あとかたづけの してない ところには、大きな 石などが ころがって いました。こんなに あれて いる あきちだけが、ぼくたち 子どもの あそびば でした。
 ちょうど、大きな 石の 下から、すいせんが ねじれて あたまを だして います。その くきは、やせて いたけれど、つぼみを もって いました。もし、この 石さえ なければ、のびのびと して、うつくしい 花が さくで あろうにと おもうと、かわいそうに なりました。
 ぼくは、かおを ふくらまして、りょう手へ 力を いれ、うんうんと うなって、石を どかそうと しましたが、石は びくとも うごきませんでした。
「ああ。」
と、ためいきを ついて いると、いつ かえって きたのだろうか、あたまの 上を つばめが、ピイチク ピイチク、ほがらかに なきながら、とんで いました。
「ぼくも、おとうさんが かえったらなあ。」
と、とおい 空を みて、かなしく なりました。
「もう ちっとの あいだ がまんして おいで。ぼくが あした、みんなを つれて くるから。そして、この 石を どかして あげようね。」
と、ぼくは 花に むかって いいました。
 花は、わたくしの ことばが わかったのだろうか、そよ風に からだを かすかに うごかしました。
 ばんがた、ぼくは うちの ほうへ かえって いきました。しきいを またぐと、へやから ラジオの 音が して、にいさんの きいて いるのが わかりました。
「ただいま。」
と、ぼくが いうと、あちらから にいさんの こえで、
「たけちゃん、はやくおいで、いま、ラジオから、日本むけの でんぱが はいったんだよ。」
と しらせました。そう きくと、
「ほんとう?」
と、ぼくは おぼえず さけんで、その そばへ かけよりました。
 だが、その ときは、おはなしが おわったばかりの あとで、なつかしい レコードが きこえて きました。
ほたあるの ひかり、まどの 雪
………………………………………
 そこで いっしょに きいて いらした おかあさんは、
「おとうさんも、あちらで この うたを おききに なって、たけしは、もう なん年生に なるかなと、おもって いらっしゃるでしょう。」
と、おっしゃったので、ぼくは いっそう おとうさんを こいしく なりました。



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