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かねも 戦地へ いきました
かねも せんちへ いきました
作品ID51546
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 16」 講談社
1978(昭和53)年2月10日
初出「良い子の友」1943(昭和18)年4〜8月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者笹平健一
公開 / 更新2024-08-03 / 2024-08-02
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 おてらの けいだいに 大きな さくらの 木が ありました。ことしも つぼみが たくさん ついて、もう ふくらみかけました。かみさまは、いろいろの 木たちに、こう して 年に 一ど、花を さかして、この よの中の ありさまを みせて くださるのでした。
 さくらの 木の かたわらに、ふるい かねつきどうが ありました。そこには、むかしからの 青さびの した かねが、さがって いました。花は だれよりも はじめに、かねに あいさつを し、それから かわいい はとに、また すこし はなれて たって いる すぎの 木に、こえを かけようと おもいました。風は あたたかく、日は うららかに てって、いい お天気で ありました。
 ちょうど その とき、
「まあ、花さん、いい ときに おひらきですね。きのうまで、雨が ふりつづきましたが、きょうは こんなに よく はれて、あなたは おしあわせです。」
と いった ものが あります。
 こえの する ほうを みると、やねの 上の かわらで ありました。
「かわらさんも、おたっしゃで けっこうです。」
と、花は にっこり わらいました。どう した ことか、どうに さがって いる かねが みえないのです。花は びっくりして、じぶんの 目を うたがいました。
「これは、ふしぎな ことだ。」
 さくらの 木が、まだ 小さくて 花の さかなかった まえ、その また ずっと まえから、かねは ここに かかって いたのでした。そして、むかしから、おもしろい こと、かなしい こと、めずらしい こと、いろいろの ことを みて、しって いるので、花に はなして きかせて くれた ものです。
 かねは おだやかな ちょうしで、
「なにしろ わたしは、この てらの たちはじめから いるのですもの、ここの ことは、なにひとつ しらぬ ことは ありません。これから また いく百年、あなたが かれて しまって、あなたの 子どもさんや おまごさんの じだいに なっても、たぶん わたしだけは、ここに いると おもいますよ。そうしたら わたしは、あなたが うつくしかった こと、えだぶりが よくて きれいな 花で あった こと、おてらへ おまいりを する 人たちが、みんな ほめた ことを、子どもさんや おまごさんに かたって きかせましょう。」
と いったのでした。
 その とき 花は、かねの いう とおりだろうと おもいました。いま その かねは、どこへ いったのであろう。しばらく 花は、からっぽに なった かねつきどうを のぞいて いましたが、とうとう やねの かわらに むかって、
「かねさんの すがたが みえませんが。」
と たずねました。
 やねの かわらも、ここで ながい あいだ、雨に さらされ、風に ふかれて、年をとり、わかい ころの げん…

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