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煙と兄弟
けむりときょうだい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2019-03-09 / 2019-02-22
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 うすぐもりのした空を、冷たい風が吹いていました。少年は、お母さんの、針仕事をなさる、窓のところで、ぼんやり、外の方をながめていました。もはや、木の葉がうすく色づいて、秋もふけてきました。
「さっきから、そこで、なにを見ているの。」と、お母さんが、少年のようすに気がついて、聞かれました。
「ぼく、煙を見ていたの。」
 お母さんは、ちょっと手を止めて、その方を見ると、となりの家の煙突から青白い煙が上っていました。
「お風呂の煙でしょう。」
 それは、少年にわかっていました。彼は、それを知らなかったのでありません。
「そうじゃないの。先に出た煙が、あとからくる煙をまっていて、いっしょに空へ上がろうとすると、いじわるい風が吹いて、みんな、どこへかさらっていくのだよ。だって、同じ木から出た兄弟だろう。かわいそうじゃないか。」と、少年は、いいました。
 お母さんは、しばらく、煙を見ていました。人間にたとえれば、手をとり合って、おぼつかなく、遠い道をいくようです。
「そう考えるのが、正しいのですよ。どこの兄弟も、やさしいお母さんのおなかから生まれて、おなじ乳をのんで、わけへだてなく育てられたのです。それを大きくなってから、すこしの損得で、兄弟げんかをしたり、たがいにゆききしないものがあれば、また中には、大恩のある、母親をきらって、よせつけないものがあるといいますから、世の中は、おそろしいところですね。」と、なにか深く感じて、こういった、お母さんの目には、光るものがありました。このとき、
「ぼくは、そんな人間に、ならないよ。」と、少年はお母さんのひざに、とびつきました。



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