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子供どうし
こどもどうし
作品ID51566
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-03-12 / 2017-02-02
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 学校から帰りの二少年が、話しながら、あまり人の通らない往来を歩いてきました。
「清ちゃん、あのお庭に咲いている赤い花はなんだか知っている?」と、一人が、立ち止まって垣根の間からのぞこうとしたのでした。
「孝ちゃん、花じゃない、赤い葉鶏頭だよ。」
「ちょっと見ると、花みたいだね。」
「孝ちゃん、この門は古いんだね、ここについているのは、呼び鈴だろう。」
「呼び鈴だけど、きっときかないんだよ。」と、孝二がいいました。
「どうして? 押せば鳴るんだろう。」
「だって、線がついていないじゃないか。」と、孝二が、あたりを見まわしていました。
「押してみようか。」
「もし、人が出てきたら、どうするの。」
「逃げようよ。」
 二少年はそんなことをいって、顔を見合って笑いました。
「孝ちゃん、お押しよ。」
「清ちゃん、お押しよ。」
「よし、押してみようか……。」と、清吉が、脊伸びをして、ボタンに指をつけようとすると、孝二は、はや逃げ腰になっていました。
「孝ちゃんずるいや、いっしょに逃げようよ。」
 そういって、清吉は、白いボタンを押したのですけれど、なんのてごたえもありませんでした。
「だれもこないよ。」
「いまに、出てくるよ。」
「やはり、きかないのだ。」
 そんなことをいっていると、玄関の戸が開く音がしました。二人の少年は、足音のしないように走って、すぐ傍らの畑に生えているすすきの蔭に隠れてしまいました。このあたりは、昔は畑地で、最近町になったのであって、まだところどころに空き地や、畑がありました。もう秋が近づいたので、すすきには白い花が咲いていました。
 二人は、息をころして、耳であちらのようすをうかがっていると、門のところまできた足音が、しばらくそこに止まっていたが、また引き返していったようでした。二人は、また顔を見合って、にやりと笑いました。
「もうお家へ入ったね。」
「ごらんよ、あの呼び鈴は、きこえるのだから。」と、清吉が、いいました。
「おもしろいね、もう一度やってみようか。」と、孝二が、いいました。
「つかまったら、たいへんだ。」
「つかまるもんか。」と、孝二は、愉快そうでした。
「もうすこし待っておいでよ。」
 二人の少年は、すすきの蔭から、顔を出して往来の方をながめていました。同じ組の岡田が、ぞうり袋をぶらさげながら、帰っていきました。
「孝ちゃん、岡田も呼ぼうか?」
「岡田は、足がおそいから、だめだよ。」
「つかまるといけないね。」
 往来に通る人がないのを見とどけて、二人はまた古い門の柱へ近寄りました。こんどは、孝二がボタンを押したのです。すると、すぐに戸が開いて、だれかこちらへ駆けてくる足音がしました。二人は、おどろいて、一目散に往来をあちらへ走っていきました。二人は、うしろを見ないようにしました。なぜなら、後を追ってくる足音がきこえたからです…

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