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さか立ち小僧さん
さかだちこぞうさん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「少年朝日 別冊冬の読み物集」1949(昭和24)年11月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-01-20 / 2017-12-26
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 こい紫の、ちょうどなす色をした海の上を、赤い帯をたらし、髪の毛をふりみだしながら、気のくるった女が駈けていくような、夏の雲を、こちらへきてからは、見られなくなったけれど、そのかわり、もっとやさしい女神が、もも色の長いたもとをうちふり、うちふり、子どもたちといっしょに鬼ごっこをしているような、なごやかな夕雲の姿を、このごろ毎日のごとく、街の上の空に、ながめるのであります。
 こんど、煉炭屋へやとわれてきた少年の秀吉は、仕事がすむと、工場裏の空き地で、近所の子どもたちといっしょにすごす時分、こうして、ひとり空をながめながら、いろいろ空想にふけるのでした。
「小僧さん、さか立ちしてごらんよ。」と、子どもの一人が、彼のそばへよると、ふいにいいました。なぜなら、彼が、ここへきてから、さか立ちのうまいということが、じき子どもたちの間で評判になったからです。それというのも、秀吉が、故郷にいる時分から、さか立ちだけは、だれにも負けまいとけいこをしたからでした。で、いつでも、きげんのいいときには、こういわれれば、
「よし、きた。」と、かけ声をして、うしろへ二、三歩さがり、前へのめるかと思うと、たくみにさか立ちをして、さながら、足で立つように平気で、あちらこちらと、歩きまわりながら、見ているものに、話しかけるのでした。
「ああ、きれいだな。あの高いえんとつの煙が、雲の中へ流れこんでいる。それが、おししの毛のように金色に光って見える。君たちにはそう見えない?」と、さか立ちしながら、秀吉は、いいました。
「金色になんか、見えないよ。」
「正ちゃんも健ちゃんも、さか立ちしてごらんよ。」
 こんなに長い間、さか立ちをしていたら、さぞ頭が重くなって、目がまわるだろうと、かえって、はたで見ているものが、心配するのでした。
「もう小僧さん、いいからおやめよ。そんなに長くさか立ちしていて、なんともないの。」と、さっき、さか立ちをすすめた子どもが、やっきになっていいました。
 やっと、秀吉は立ちなおると、両手についた土をはらいおとして、
「ああ、なんともないさ。」と、笑いながら、答えました。
「おどろいたな、ぼくたちには、できっこない。それに、こんなことをすれば、血が下がって体に大どくだろう。」と、正ちゃんがいいました。
「は、は、は、なんでも、ひとのできないことを、するのでなくちゃ、だめなのさ。」と、秀吉は、自信ありげに、いいました。
「それじゃ、小僧さんは、子どものときから、ひとのできない、さか立ちをしようと勉強したんだね。」と、武ちゃんが、ききました。
「おれは、貧乏の家に生まれたのだ。とうちゃんは、おれが生まれると、じき死んだので、お顔をおぼえていない。おれは、まったく、おふくろの手一つでそだてられた。母親は、手内職をしたり、よそへやとわれていったりして親子は暮らしていた。おれは、小学…

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