えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
すずめ
すずめ |
|
作品ID | 51591 |
---|---|
著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 13」 講談社 1977(昭和52)年11月10日 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2019-07-06 / 2019-06-28 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
冬の日は、昼過ぎになると、急に光がうすくなるのでした。枯れ残ったすすきの葉が黄色くなって、こんもりと田の中に一所茂っていました。そこは低地で、野菜を作ることができないので、そうなっているのかもしれません。往来からだいぶ離れていましたが、道の方が高いので、よくそのあたりの景色は見下ろされるのでした。晩方になると、すずめたちは、群れをなして、森の中の巣へ帰っていくのでしょう。チュン、チュン、鳴き交わしながら、空を飛んでいきました。彼らが、ちょうど、そのすすきのやぶの上へさしかかろうとすると、ぱっとして、驚いたように、急に群れが乱れたのです。なぜなら、下のすすきの中で、声をかぎりに自分たちを呼ぶ友の声をきいたからでした。
「どうしよう、だれか呼んでいるじゃないか。」と、先頭に立って、飛んでいた一羽が、仲間を見まわしていいました。
「いいえ、いってしまおう。」といったものもあります。
「きっと、餌があるから、降りろというのだ。」というものもありました。
すると、中には、
「いや、そうじゃない。どうかしたんだ、助けてくれといっているのだ。」と、いったものもあります。
こうして意見がまちまちであったので、彼らは、そのまま先へ飛んでいくこともできずに、すすきの生えている上の空を、二、三べんもぐるぐるまわって、話し合っていましたが、こんなことに、かかりあっていてはろくなことがないと考える連中は、
「じゃ、僕たちは、先へいくから。」といって、その群れは二つに別れてしまいました。
「まあ、ああいって呼んでいるのだ、いってみよう。」と、残った群れは、それから注意深く下のようすを探りながら、ぐるぐると空をまわってだんだん下へ降りてきました。そのうちに勇敢な一羽は、勢いよく、つういと、その声のする方へ走っていきました。つづいて、二羽、三羽と、後についてやぶの中へ降りたのです。
このとき、どこからか、さっと雲のような灰色の影が、眼前をさえぎったかと思うと、たちまち網が頭からかかってしまいました。
「あっ、やられた!」と、思ったときは、もう遅かったのです。網の中に入ったすずめたちは、隠れ場所から出てきた大男の手にかかって、殺されてしまったのです。
「いま、五羽かかったね。」と、いう声が、往来の方から、きこえてきました。
男は、また最初のように、かすみ網をひろげて、落としの口を開けました。そして、自分はあちらのやぶの中に隠れて、おとりのすずめを鳴かすように糸を引きました。こうして、鳴くことに馴らされたすずめは、しきりに声をたてて鳴きました。
また、前のように、どこからか、新しくすずめの群れが飛んできました。
「おい、どこかで、呼んでいるものがあるじゃないか。」
「どこだろう。」
「あのくさむらのようだ、早くいってみよう。」
しかしながら、彼らは、注意を怠りませんでした。そして…