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すずめの巣
すずめのす
作品ID51592
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-09-04 / 2017-08-25
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある日のことです。孝吉が、へやで雑誌を読んで、夢中になっていると、
「孝吉は、いないか。」と、おじいさんの呼ばれる声がしました。いつもとちがって、なんだか怒っているようです。
「はてな、どうしたんだろう。なんにもしかられる覚えはないのに。」と、孝吉は、思いました。
「はあい。」と、返事をして、おじいさんのそばへいきました。
「おまえは、私の大事にしているらんの鉢を倒したろう。」と、眼鏡越しにじっと顔をにらんでおっしゃいました。孝吉は、知らないことですから、
「らんの鉢?」と、答えました。
「知らないことがあるものか。おまえよりするものがない。」と、おじいさんは、あくまで孝吉がしたと思っていられます。
「あれほど、植木台へ上ってはいけないというのに、いつもあすこへいって、おまえはいたずらをしている。」
 孝吉は、よく屋根の植木を並べてある台の上へ出ます。なぜなら、あすこはよく日が当たってあたたかであるし、また遠方の景色が見えて、なんとなく気分が晴れ晴れするからでした。けれど、おじいさんの大事にしている植木鉢などに一度だってさわったことはありません
「僕、ほんとうに知りませんよ。」
「おまえは、昨日であったか、あすこへ出てなにかしていたろう。」と、おじいさんはおっしゃいました。
「昨日?」と、孝吉は、考えました。ああそうだった。もう春がやってくるのだと思って南の方の空をながめていると、うす桃色の雲がたなびいており、そして、その下の方に、学校の大きなかしの木の頭が、こんもりとして見えたのでありました。
「重ちゃん、ここから、学校のかしの木の頭が見えるよ。」と、ちょうど外に遊んでいた重ちゃんに知らせました。
「ほんとう?」
「だれが、うそをいうものか。」
「僕も上って見ていい?」と、重ちゃんがいったから、孝吉は、おじいさんに、植木台へお友だちを乗せてもいいかと聞くと、おじいさんは、らんや、おもとが並べてあるし、ぼたんのつぼみにでもさわるといけないからと、お許しにならなかったのでした。
「重ちゃん、原っぱへいって、ボールを投げて遊ぼうよ。」と、しかたがないから、下を向いていったのです。
「ああ、そのほうがおもしろいや。早く孝ちゃん、いらっしゃいよ。」と、重ちゃんは、いいました。それから、二人は、原っぱで、ボールを投げて遊んだのでした。ただそれぎりであって、自分は、植木になどさわらなかったのでした。
「きてごらん。」と、いわれるので、おじいさんについて屋根へ出てみると、なるほど、らんの砂や土がこぼれて、あたりにちらばっています。
「おかしいね。」と、孝吉も、頭を傾けました。お母さんでなし、お姉さんでなし、だれだろう?
「べつに、鉢をころがしたのでもないな。」と、おじいさんは、らんの鉢を手に取り上げていられました。
「おまえが、棒でもふりまわして、その先が当たったのだろ…

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