えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

すずめを打つ
すずめをうつ
作品ID51593
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-05-30 / 2018-04-26
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より


 風が吹くと、木の葉が、せわしそうに動きました。空の色は青々として、秋がしだいに深くなりつつあるのが感じられます。朝、まだうす暗いうちから、庭さきの木立へ、いろいろの小鳥が飛んできてさえずりました。ちょうど、休日だったので、ご飯がすむと、清くんは、縁側へ出て、新聞を見ていらっしゃるお父さんのそばへいって、自分もゆっくりした気持ちで庭をながめていました。
 すずめまで、他の渡り鳥のように、元気よく木の枝や、屋根の上で、鳴いていました。このとき、空気銃を持った少年が、かきねの外を通りました。
「秀ちゃんの、兄さんだ。」
 清くんは、すぐ庭へ下りて走りました。まもなく、木戸口から、少年をつれて、入りました。
「どこに?」
「ほら、あの木の枝にいるじゃないか。」
 少年は、やっとわかったとみえてうなずきました。そして、銃を持ちかえると、ねらいをつけました。同じく、お父さんも、その方を見ていられたが、あのすずめは親すずめと子すずめらしい。親すずめは、自分だけ逃げようとせず子すずめをかばうであろう。それがために、子供の身がわりとなって、打たれるかもしれない。どうぞ、神さま、たまがあたりませぬように! と、心で念じていられたのです。
 また、少年は打ちそこなっては、友だちや、友だちのお父さんの見ている前で、みっともないと思いました。それで、しんけんでした。そのうち、シュッと、するどく空気を切って、たまの飛ぶ音がしました。いままで鳴いていた鳥の声はやんで、同時に、なにか、ぱたりと下へ落ちたのでありました。
「あたった! お父さん、秀ちゃんの兄さんは、うまいでしょう。」
 こう叫んで、清くんは、縁側の方をふり向きましたが、いつのまにか、お父さんの姿は、そこにありませんでした。正直にいうと、お父さんは、止めさせる力がないのを恥じて、逃げられたのでした。元気な少年たちには、もとよりそんな老人の気持ちなんかわかりません。二人は、菊畑をわけて、落ちたすずめをさがしました。すずめはじきに見つかりました。
「君のお父さん、すずめすきかい。」と、少年がききました。
「ああ、大好きだよ。」と、清くんは答えました。
「これ、お父さんに、あげてよ。」と、少年はすずめを清くんにあたえて、ひとり幸先のいいのをよろこんで、野原の方をさして出かけました。
 清くんは、家へ入ってから、すずめをお父さんに渡すと、お父さんは、すずめを掌にのせて、しばらく考えていられましたが、なまなか道理をいいきかせて、晴れ晴れとした子供の心を暗くしてはならぬと思われたので、
「それは、ありがとう。だがきょうは、仏さまの日だからね。」といって、あとで、だれも気づかぬ間に、庭の木立の下へ、すずめを埋められたのでありました。



えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko