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空にわく金色の雲
そらにわくきんいろのくも |
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作品ID | 51597 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 14」 講談社 1977(昭和52)年12月10日 |
初出 | 「こどものせかい」1953(昭和28)年6月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2018-07-07 / 2018-06-27 |
長さの目安 | 約 14 ページ(500字/頁で計算) |
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道であった、顔見知りの人は、みすぼらしい正吉の母にむかって、
「よく、女手ひとつで、むすこさんを、これまでになさった。」と、いって、うしろについてくる正吉を見ながら、正吉の母をほめるのでした。
しかし、心から感心するように見せても、じつは母子のしがない暮らしを、あわれむというふうが見えるので、正吉は子供ながら、それを感じていましたが、母は、そういって、なぐさめられると、気が弱くなっているせいか、すぐなみだぐんで、
「なにしろ、三つのときから、一人で育て、やっと来年は小学校を、卒業するまでにしました。」と、うったえるように答えたのでした。
あいては、もっと立ちいって、二人の生活を知ろうとするのを、正吉は母のたもとをひっぱって、
「さあ、早くいこうよ。」と、その場から、はなれたのでした。
正吉は、そのときだまっていたけれど、自分の母を、きのどくに思いました。そして、母のためなら、どんな困難もいとわないと、心にちかったのです。
「来年は、ぼく、おじさんの家へいくのだ。そうしたら、おかあさんは、一人になって、さびしいだろうね。」と、正吉はいうのでした。
「いいえ、さびしいものかね。おかあさんは、はたらいて、はたらいて、そんなことわすれてしまいます。ただおまえが、早く大きくなって、ひとり立ちするのを、たのしみとしますよ。」と、母は、ねっしんに針をもつ手をはこびながら、答えるのでした。
正吉が学校からかえると、近所の武夫くんとさそいあって、原っぱへあそびにいき、草の上にねころんでいました。
「だれでも、ほかが、まねのできない技術をもてば、えらくなれると、先生がいったね。」と、正吉は学校で聞いてきた話を、思いだしました。
「ああ、そうだよ。マラソン選手となって、オリンピックで名をあげるのも、図画がじょうずになって、名高い画家となるのも、自分一人だけの名誉でなく、やはり国の名誉だと、先生がいわれたよ。それも、自信と努力することが、たいせつなんだって。」と、武夫は答えました。
「ぼく、徒競走に自信があるんだがな。」と、正吉は目をかがやかしました。
「そうだ、正ちゃんは、いつも徒競走では、一番だから、練習して、マラソン選手になるといいよ。」と、武夫は手をたたいて、正吉の思いつきに賛成しました。
正吉はきゅうに、からだをおこして、空をあおぎながら、しんけんに考えこんだのです。そして、自分が、はなやかな世界的の選手となった日のゆめを、目にえがいたのです。
「なんで、そんなことを、きゅうにいいだしたの。」と、武夫はふしぎに思って、聞きました。
「もし、そうなったら、ぼくのおかあさんが、どんなによろこぶだろうと思ったのさ。だれでも得手というものがあるから、それをのばせば、成功すると先生がいったので、ぼく、元気が出て、うれしくなったよ。」と正吉は、すなおに心のうちを、友だちに…