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太陽と星の下
たいようとほしのした
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「新児童文化 第6冊」1950(昭和25)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2019-05-11 / 2019-04-26
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 S少年は、町へ出ると、時計屋の前に立つのが好きでした。そして、キチキチと、小さな針が、正しく休みなく、時をきざんでいるのを見て、――この時計は、どこの工場で、どんな人たちの手で造られたのだろう――と、空想するのでした。
 すると、明るい、清潔な、設備のよくいきとどいた、近代ふうの工場が、目の前に浮かび上がります。彼は、いつか自分も、こんな工場へ通って働き、熟練工になるかもしれないと、思ったりするのでした。こうして、町は、少年にいろいろな、たのしい夢を与えてくれました。
 ある日、四つつじの角のところへ、新しく美術店ができました。しかし、そこには、新しいものより、古いもののほうが多かったから、むしろ、こっとう店というのかもしれません。
 入り口のガラス窓の内には、まるいつぼがおいてありました。
 少年は、その深みのある、青い海をのぞくような色に、ひきつけられたのです。
「いい色だな。」と、そのやわらかな感じは、なんとなく気持ちをやわらげました。まだ、なにかあるかと、あたりを見まわすと、おくの方の台に、赤いさらがかざってありました。
 これは、夏の晩方、海面へ、たれさがる雲のように、みずみずとして、美しかったので、こんどは、目がその方へ奪われてしまいました。なんでも、その図は、中国人らしい、一人の女が、赤いたもとをひるがえして、おどっているのでした。
 少年は、近くそばへ寄って見たかったのだけれど、買えるような身でないから、さすがにその勇気がなく、こころ残りを感じながら、店さきをはなれたのです。
 すこしくると、魚屋がありました。店さきの台の上に、大きな切り身がおいてありました。その肉の色は、おどろくばかり毒々しく、赤黒くて、かつて、魚では、こんなのを見たことがありません。
「これは、鯨の肉だな。そうだ、南極からきた冷凍肉だ。人間とおなじく、赤ちゃんをかわいがる哺乳動物の肉なんだ。」
 こう思った瞬間、いままでの頭の中のなごやかなまぼろしは消えてしまって、そこには、残忍な、血なまぐさい光景が、ありありと浮かびました。
 捕鯨の状況を考えると、たえられない気持ちがして、少年は、途中にある丘にかけ登りました。丘の上には、大きなけやきの木がありました。その根に、腰をおろしたのです。ついこのあいだまで、芽をふいたばかりの新緑が、うす緑色に煙っていたのが、すっかり青葉となっていました。ここからは、あちらまでつづく、町の方が見おろされました。ぴか、ぴかと、線を引くごとく流れるのは、自動車でありました。そのかぶとむしのような、黒光りのする体に、アンテナを立てていて、走りながら、どこかと話したり、また、放送の音楽をきいたりするのです。
「人間は、ほかの動物のできない発明をする。もし、おれが鯨だったら、どうして人間という敵から、のがれることができようか。」と、少年は、空想しまし…

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