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托児所のある村
たくじしょのあるむら
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「文学教育 第1集」1951(昭和26)年10月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2020-02-29 / 2020-01-24
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 村は静かでありました。
 広々とした、托児所の庭にだけ、わらい声がおこったり、子供たちのあそびたわむれるさけび声がして、なんとなく、にぎやかでありました。
 よく晴れた、青い青い大空には、ぽかりと、一つ白い雲が、浮かんでいました。雲も、下のこのようすをながめて、うらやましがっているようでした。
 若い保母さんも、元気でした。子供といっしょになって、かけたり、おどったりしていました。くつをはいた子供、ぞうりをはいた子供、げたをはいた子供、いろいろでした。また着ているものも、さまざまでした。
 けれど、そんなものは、だれの目にも入りません。ただ、みんなは、光の海を泳ぐように、かみの毛を風に波立たせ、たのしくて、しかたがないと、小さい胸をふくらませていました。
 さっきから、いくたびか、つばめが、子供たちの頭の上を、とびまわっていきました。
 それを見た一人の子が、
「つばめも、おにごっこしているんだね。」と、いいました。
「そうよ。いいお天気だから、よろこんで、あそんでいるのよ。」と、一人の子が、こたえました。
 これを聞いた保母の娘さんは、
「つばめばかりでなくてよ。ごらんなさい。あの木の枝がダンスをしているでしょう。」と、いいました。
「ああ、おかしい。ダンスだって。」
「ほんとうだわ。よく見ると、おどっているようよ。」
 こう、みんなが、まわりの木や、鳥や、草に、気のついたときに、はじめて、自分たちがうれしいときには、まわりのものが、やはり、みんなうれしく、たのしくあるのが、わかりました。
 さっきから、すずめも、おしゃべりし、わらったり、とびまわったりしていたし、花だんの、白い花は、いつもより、かおりが高かったし、赤い花は、とけて流れそうに、色つやをおびて、美しかったのです。
 ああなんという、たのしい一時だったでしょう。そして、めぐみ深く、こぼれるようにてらす太陽の光と、さえずる鳥の声と、自然の子たち、子守歌のようにささやく風の音より、この平和の世界を、じゃまするものは、なかったのでした。
 みんなは、つかれたので、思い思いの場所で休みました。あちらのベンチに、こちらの芝生に、三人、四人というふうに。そして、保母の娘さんは、ひたいに汗をにじませて、子供たちにとりまかれて、休んでいました。
 ちょうどそのとき、入り口から、男の人が、はいってきました。顔見知りの役場のものでした。
「いそいで、やってきたから、汗をかいた。」と、いいながら、顔の汗をふきました。
 保母さんは、なんのご用があって、そんなに、急いできたのかと、男の顔を見まもりました。
「東京から、お役人や先生がたがやっていらして、托児所をごらんなさるというのだ。教育上のご参考に、なさるのだろう。もうじき、見えるだろうから、失礼のないように、知らせにきたのだ。」と、いいました。
 若い保母さんは…

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