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だまされた娘とちょうの話
だまされたむすめとちょうのはなし
作品ID51608
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「小学六年生 4巻2号」1951(昭和26)年5月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-11-20 / 2018-10-24
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 弟妹の多い、貧しい家に育ったお竹は、大きくなると、よそに出て働かなければなりませんでした。
 日ごろ、親しくした、近所のおじいさんは、かの女に向かって、
「おまえさんは、やさしいし、正直であるし、それに、子供が好きだから、どこへいってもかわいがられるだろう。うらおもてがあったり、じゃけんだったりすると、きらわれて出世の見込みがないものだ。東京へいったら、からだを大事にして、よく働きなさい。」と、希望のある言葉を与えてくれました。
 方々で桜の花の咲きはじめたころでした。お竹は、故郷に別れを告げたのであります。
 もう、こちらへきてから、だいぶ日数がたちました。かの女は、朝早く起きると、食事の仕度をし、それが終わると、主人のくつをみがき、また縁側をふいたりするのでした。
 奥さまのへやには、大きな鏡がおいてありました。そうじをするときには、自分の姿が、その氷のように冷たく光るガラスの面にうつるので、つい知らず、手を頭へやって、髪形を直したのです。
 あちらで、それを見た奥さまは、女はだれでも、鏡があれば、しぜんに自分の姿を写して見るのが、本能ということを知らなそうに、
「ひまなときは、いつでもここへきてお化粧をして、いいんですよ。」と、わざとらしく、お竹に、いいました。
 お竹は、さもとがめられたように顔を赤くして、なんと返事をしていいかわからず、ただ、下を向きながら仕事をするばかりでした。
 奥さまは、つづけて、いいました。
「前のねえやは、それは、顔もよかったし、気がきいて、役にたつ子でしたが、器量がご自慢なので、ひまさえあれば、鏡に向かって、ほお紅をつけたり、おしろいはけでたたいたりするので、なにもお嬢さんじゃなし、パンパンでもあるまいから、気の毒だけれど、いってもらったんですよ。」と、さも、おかしいことを話すように奥さまは、笑ったのでした。
 あまり、その調子がくだけていて、自分に対する皮肉とはとれなかったので、お竹は、前にいた女中のことだけに、ついつりこまれて、
「そんなに、きれいな方なんですか。」と、奥さまの方を見て、たずねました。
 しかし、奥さまのようすは、さっきの笑いとは似つかず、冷ややかでした。
「ええ、それは、顔がきれいなばかりでなく、お料理だって、なんでもできたんです。」と、そっけなく答えた、奥さまの言葉には、おまえのような、田舎出とちがうという、さげすみの意味があらわれていました。
 さすがに、人のいうことを、まっすぐにしか解しなかったお竹も、底意地のわるい、奥さまのいい方がわかって、もうなにもいうことができませんでした。しかし、そこを立ち去りがけに、自分の顔は、そんなにみにくいのであるかと、つい鏡の方を見向かずにいられませんでした。
 あわれなかの女には、まだ台所でたくさん仕事が待っていました。それをかかえると、かの女は、外の井戸…

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