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時計と窓の話
とけいとまどのはなし
作品ID51627
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「小学五年生 4巻6号」1951(昭和26)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2019-09-08 / 2019-08-30
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私の生まれる前から、このおき時計は、家にあったので、それだけ、親しみぶかい感がするのであります。ある日のこと、父が、まだ学生の時分、ゆき来する町の古道具屋に、この時計が、かざってあったのを見つけて、いい時計と思い、ほしくてたまらず、とうとう買ったということです。
「これは、外国製で、こちらのものでありません。ある公使の方が持って帰られましたが、その方が、おなくなりになって、こんど遺族は、いなかへお移りなさるので、いろいろの品といっしょに出たものです。機械は正確ですし、ごらんのとおり、どこもいたんでいません。」と、そのとき、店の主人は、いったそうでした。
 父は、主人のいうことを信じ、ほり出しものをしたと喜んで、これをだくようにして、自分のへやへ持ち帰りました。
 私は、父から聞いた、そんな遠い昔のことを考えながら、いま自分の本だなにのっている時計をながめていました。外国から、日本へわたり、人の手から人の手へ、てんてんとして、使用されてきたので、時計も、だいぶ年をとっていると思いました。
 たとえ、古くなっても、その美しい形は、かわらなかったのです。四角形というよりは、いくらか長方形で、金色にめっきがしてあり、左右の柱には、ぶどうのつるがからんでいて、はとのとんでいる浮きぼりがしてあるので、いつ見ても平和な、しずかな感じがするのでした。
 私の本だなには、教科書や、雑誌や、参考書などが、ごっちゃにはいっています。壁には、カレンダーがかかっているし、へやのすみには、野球のミットが投げ出してあって、べつにかざりというものがなかったから、この時計だけが、ただ一つ光って、宝物のように見えました。
 母も、そう思っていたようです。しかし、母が宝物と思ったのは、多少ぼくが思ったのと、意味がちがうかもしれません。なぜなら、父と母が、家を持ったはじめのころは、まだいまの大きな柱時計もなくて、このおき時計ただ一つがたよりだったからでした。毎朝、父は、この時計を見て出勤したし、また母は、この時計を見て、夕飯のしたくをしたのでした。そして、時計は、休みなく、くるいなく、忠実に、そのつとめをはたしたのです。
 けれど、ぼくが生まれて、学校へあがる時分には、いつしか、茶の間の柱へ、大きな時計がかかって、時間ごとに、いい音をたてたり、すべてご用をたすようになっていたので、この金色のおき時計は、忘れられたように、父の書斎で、書だなの上にのせられたまま、ほこりをあびていました。
 私は、ほこりをあびて、止まっている時計を見るたびに、なんだか、かわいそうに思い、人間のかって気ままに対して、腹立たしくさえ感じました。
「おとうさん、あのおき時計をもらっても、いいでしょう。」と、私は、たのみました。
 なぜか、父は、すぐにやるといわなかったのです。それを無理にたのんで、私は時計を自分のへやへ持っ…

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