えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
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どこかで呼ぶような
どこかでよぶような |
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作品ID | 51631 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 14」 講談社 1977(昭和52)年12月10日 |
初出 | 「幼年クラブ」1949(昭和24)年5月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2019-01-12 / 2018-12-24 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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わたくしが門を出ると、ちょうど、ピイピイ、笛をならしながら、らお屋が、あちらのかどをまがりました。
わたくしは、あの音を聞くと、なんとなく、春さきの感じがします。どこへ遊びにいくという、あてもなかったので、足のむくまま原っぱへきました。知らぬまにとなりのペスが、ついてきました。どうしたのか、きょうは、だれのかげも見えませんでした。
風のない、おだやかな空は、どんよりとうるんで、足もとの枯れ草は、ふかふかとして、日の光にあたたまっていました。その太陽のにおいをなつかしむように、わたくしは、ごろりとからだをなげだしました。ペスも、かたわらへ、前足をのばして、うずくまりました。
しばらくすると、遠くの方から、オートバイの走ってくる音がしました。ペスは、はねおきて、往来のまん中へ出て、ほえたてました。
「ペス! ペス!」と、わたくしは、よびかえそうとしました。しかし、きかぬので、「ばかっ。」と、かけていって、わたくしは、犬を追いはらいました。
オート三輪車には、黒い眼鏡をかけた、おじさんが乗っていました。きゅうに、速力をゆるめると、
「どれ、すこし、休んでいこうか。」と、おじさんは、原っぱの中へ、車をひき入れました。
「ここは、あたたかで、いいところですね。」と、さもしたしげに、わたくしへ話しかけるので、わたくしも、いっしょに、もとの場所へきて、ふたたび草の上にねころびました。ペスは、二人のようすを見ると、きまりわるく思ったか、家へ、さっさとにげていきました。
「きみのうちの犬ですか。」と、おじさんが、聞きました。
「いえ、となりの犬です。」と、わたくしは、答えました。
「猟犬らしいが、いい犬ですね。」
「そう、よく、よそのにわとりや、うさぎをとってこまるんですよ。」
「は、は、は。」と、おじさんは、わらいました。そして、ライターで、たばこの火をつけました。
あおぐと、太陽は、黄色にもえていました。そのあたたかな光を、おしげもなく、草や人間の上にあびせています。このとき、またしても、ドーンという音がしたのです。
「おや、花火かな。」と、眼鏡をかけたおじさんは、耳をすましました。すると、ドーンドーンとつづいて、しずかな空気をやぶる音がしたのでした。それは、たしかに、あちらの森の、もっとさきからきこえたのでした。
「さっきから、するんですよ。」と、わたくしは、いいました。
「あっちの町ですね。いまごろお祭りかしらん。」と、おじさんは、考えていました。
わたくしは、神社のお祭りにしては、すこしはやすぎるように感じたけれど、これから日に日に、その季節にちかづくのを知ると、なんとなく心があかるくなりました。
「なにがあるか、いってみませんか。そんなに遠くはないようだ。」と、おじさんは、すぐにもでかけるようすをみせました。
「また、ここまで、つれてきてくれる?」と…