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野菊の花
のぎくのはな
作品ID51649
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-12-17 / 2017-11-24
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 正二くんの打ちふる細い竹の棒は、青い初秋の空の下で、しなしなと光って見えました。
「正ちゃん、とんぼが捕れたかい。」
 まだ、草のいきいきとして、生えている土の上を飛んで、清吉は、こちらへかけてきました。
「清ちゃん、僕いまきたばかりなのさ。あの桜の木の下に、犬が捨ててあるよ。」と、正二はこのとき、鳥の飛んでいく方を指しながら、いいました。
「ほんとう、どんな犬の子?」
「白と黒のぶちで、耳が垂れていて、かわいいよ。」
「それで、どうしたの。」と、清吉は、ききました。
「みんな、見てるよ。」
「困るね。僕たちの遊ぶ原っぱへ捨てるなんて、だれだろうなあ。」
 清吉の心は、もうそのほうへ奪われてしまいました。
 棒を持った正二も、清吉についてきました。
 二人は、並んで歩きながら、話をしました。
「このあいだ、どこかの若いおばさんが、ねこの子をこの原っぱへ捨てにきたとき、正ちゃんはおらなかったかな。」
「ああ、おったとも。僕たち、ボールを投げていたじゃないか。まだ三十ぐらいのやさしそうなおばさんだったろう。」
「なにがやさしいものか。だれか見ていないかと、くるくるあたりを見まわしてから、ふいに、ぽいとねこの子を草の中へ投げたんだよ。ねこはニャア、ニャアと泣いている。あまりかわいそうだから、僕、おばさんを追いかけたのだ。なんでねこの子をこんなところへ捨てるんですか、かわいそうじゃありませんかといったのさ。」
「そうだったね。」
「そうすると、おばさんは、怖い目をして僕の方を振り返ったんだよ。うちのねこじゃありませんよ、お勝手へ入ってきてうるさいから、ここへ持ってきて置いていくのですと。」
 清吉は、そのときのことを思い出すと、いまでも小さな胸が、熱くなるのを覚えました。
「しかし、よかったね。洋服屋のおじさんがちょうど通りかかって、ねずみが出て困っているのだからといって、つれていってくれたので。」と、正二は、いいました。
「あのねこ、どうしたろうね。」
「いるよ。僕このあいだ前を通ったら、ガラス戸の中で、表の方を向いて、顔を洗っているのが見えた。」
「手をなめて、顔を洗っていたの、かわいいなあ。」
 清吉も、この話をきいて、目を細くして笑いました。
「犬も、ねこも、みんななにも知らないので、かわいいよ。」
「それだのに、この原っぱへ捨てるなんて、こんど、ここへ犬やねこを捨てるべからずと書いて、札を立てようか。」と、清吉がいいました。
「そうだね。僕たちの原っぱへ捨てられた犬やねこは、僕たちの責任となるからね。」
 二人が、桜の木の下へやってくると、小さな箱の中に犬が入って、ほかの子供たちは、犬の頭をなでたり、お菓子をやったりしていました。けれど、まだやっと目があいたばかりで、犬はただ小さな尾をぴちぴち左右に振るばかり、堅いお菓子を食べることができませんでし…

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